ノックの音が彼等の耳に届く。
「誰だ?」
 こう言いながら、ディアッカが端末を操作する。そうすれば、外にいる人間の顔を確認できるのだ。
「って、シンか」
 どうかしたのか、といいながら彼はさっさとドアを開けた。
「寮の方はいいのか?」
 この問いかけに、シンは苦笑を浮かべる。
「部屋の片づけ以外は」
 それが一番大変かもしれない……と彼は続けた。
「でも、データーは死守できましたし、ラボの方も、一番重要な部分は無事ですから」
 部屋の片づけぐらいは妥協するしかないのではないか。彼はそうも付け加える。
「……そうだな」
 それが一番厄介だが、とそう心の中で付け加えたのは自分だけではないだろう。イザークは顔をしかめながら心の中でそう呟いた。
「言っておきますけど、俺たちの部屋を荒らしたのは、俺たちでもカガリ様でもないですからね」
 文句は、それ以前に侵入していた連中に言ってくれ。シンはさらにこう言葉を重ねる。
「はいはい」
 まぁ、しゃーないわな……とディアッカも頷いてみせた。
「それよりも、キラさんは?」
 彼のそんな態度に安心をしたのだろうか。シンは一番聞きたかったであろう事を口にした。
「疲れていたんだろう。眠っている」
 ついでにフレイも、と付け加えれば、彼は思いきり嫌そうな表情を作る。
「あいつなんて、放っておけばいいんだ」
 そして、吐き捨てるようにこういった。
「お前……」
 確かに、表面上だけ見ていればそれはしかたがないことなのかもしれない。だが、今回のことだけを見れば、間違いなく彼女からの連絡がなければ防げなかったはず。それだけでも、感謝するにあまりあるのではないか。
「だが、キラにとっては大切な友人なのだろう?」
 今の言葉を聞けば、彼がどのような思いをするのか。当然わかっているのだろうな。イザークは直接注意する代わりにこう問いかける。
「そうそう。キラのために親とケンカをしてくれる子は大切にしないとな」
 さらにディアッカもこう言って頷いてみせた。
「そうそう。少なくとも《キラ》に偏見がないって言うだけでも、十分だろう?」
 おかげで、コーディネイターに嫌悪感を抱いていないようだし……とラスティも笑う。
「偏見を抱いていない?」
 あれで? とシンは問いかけてくる。
「持ってたら、あんな風に話しかけてこないだろう?」
 完全に無視をするか、用件だけを仕方がなく伝えてくるか。そのどちらかではないか。
「そうそう。ケンカをふっかけてくるのも、相手を対等の人間だと思っているからだろう」
 でなければ、ケンカにもならないだろう。ディアッカもこう言って頷いてみせる。
「特に、口げんかはな。顔を合わせなければ出来ない」
 戦争は違うが、と付け加えたのは特に意味はない。
「顔を合わせて、たわいのないことで口げんかをする。それはそれで幸せなことかもしれないぞ」
 それに納得できないのか。シンはまだ苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「そうかもしれませんけど……」
 でも、フレイは性格が合わない。
 第一、キラを独り占めしようとする奴と仲良くできるか。彼はそうも付け加える。
「……そういうことにしておいてやるよ」
 シンだって、他の連中から見れば同じように言われてもおかしくはない立場なのだ。それを彼は自覚しているのだろうか。
「どちらにしても、そこそこのところで矛先を収めておけ。でなければ、キラが悲しむだろう?」
 この一言にシンは渋々ながら頷いてみせた。
「で、何の用事だったんだ?」
 雰囲気を変えようとしているのか。ディアッカがこう告げる。
「あぁ、そうだった!」
 忘れていた、とシンは声を上げた。
「……キラが起きるだろうが」
 低い声でこう指摘をする。
「どうしよう……キラさんを『連れてこい』って言われてるんだよ」
 あっちも忙しいから、今を逃すと次にいつ、話を出来るかわからないと言っていた。シンはそうも続ける。
「でも、キラさん、ねているし……」
 起こすのも問題なのではないだろうか。彼はこうも付け加える。
「確認してくればいいだろうが」
 キラを起こしてでも話をしたいのか。それとも、寝顔を見るだけで我慢をするのか、とイザークは口にした。
「……そうする」
 別の意味で怖いけど。そう言いながらも、シンはそっと部屋から出て行った。