本音を言えば、キラが眠ってくれたのはありがたい。
「……状況はどうなっている?」
 それでも声を潜めながらラスティに問いかけた。
「……モルゲンレーテの捜索は八割方終了したらしい。かなりの数のブルーコスモス――構成員だけではなく協力者も含めてだけど、な――がいたらしい」
 問題は、とため息をつきながら彼は言葉を続けた。
「学校の方だと、さ」
 さらに声を潜めて彼はこう付け加える。
「こっそりと学生達を洗脳していたって言っていたぞ」
 だからこそ厄介なのだ、とか。
「……そうか」
 確かに、それが一番厄介だろうな……とイザークも頷く。
 ひょっとしたら、キラが気にしていたコーディネイター蔑視の視線も、それが原因なのではないだろうか。
 しかし、学生は純粋だからこそ、その思考の矯正が難しいような気がする。
「どちらにしても、オーブの判断に任せるしかないのだろうな」
 こう言うときに何も出来ないというのはもどかしい。そう考えて、小さなため息をつく。
「そうだな。俺たちは、あくまでも傍観者だ」
 悔しいが、とディアッカも頷いてみせる。
「でも……キラの側にはいてやれるだろう?」
 それだけで十分ではないのか。彼はもうも付け加えた。
「そう思ってくれればいいが、な」
 特に、キラが……だ。
 でなければ、意味がないだろう。むしろ、キラにとってマイナスの効果にしかならないはずだ。
「大丈夫だろう。お前ならば、な」
 自分たちは迷惑がられるかもしれないが。そう言ってラスティも笑う。
「そう言えば……あいつは?」
 ここに来ている最後のメンバーのことをようやく思い出して、イザークは口にする。
「こき使われているんじゃねぇ?」
 自分も知らない、とラスティは即座に言い返してきた。
「でも、本人はどこか嬉しそうな表情で出かけていったぞ」
 さらに付け加えられたこの言葉に、イザークは彼がどこで何をしているのか、想像が付いてしまった。それが正解であれば、間違いなくこき使われているだろう。
「まぁ、自分で選んだことだしな」
 下心があるであろう事はわかりきっている。だから、別にかわいそうだと思うことはない。
「だよな」
 ということでその話は終わりにしておこうか。ラスティはこう言って話題を締めくくる。
「ともかく、キラの安全さえ確保できれば一安心、というところか」
 後は研究施設だろうか。そうも彼は呟く。
「かもしれないな。だから、デュランダル博士もこちらに顔を見せないのか」
 ディアッカが少し眉を寄せながらこう告げる。
 ということは、何かあったのだろうか。
「多少の損傷ですんでいればいいが」
 再建不能なまでに破壊されていれば、また一から開発を始めなければいけない。いくらデーターがあったとしても、それでは意味がないだろう。
「だよな。でないと、俺たちがあれを提供した意味がなくなる」
 あんな恥ずかしい思いをしたのに、とディアッカは苦笑と共に続けた。
「そうだな」
 まさか、あんな事を言われるとは思わなかった……とイザークも頷く。
「しかも、母上がデュランダル博士に許可を出したのだそうだ」
 まさか、事前にあちらに許可を求めていたとは思わなかった。そう言って、イザークはため息をつく。
「安心しろ。家もだ」
 親父が許可を出していたらしい、とディアッカは頷いてみせる。
「しかも、生まれた子を引き取らせろといっているらしいぞ」
 跡取りにすると息巻いているそうだ、と彼は苦笑を浮かべた。
「……そりゃ、お前が大人しく結婚すると思っていないからじゃねぇ?」
 ラスティが即座にこう茶々を入れてくる。
「俺に結婚を決意させるような女性がいないだけだろう」
 それに、ディアッカは即座にこう言い返す。
「運命の相手がいたら、即座にプロポーズするって」
 たとえ、結婚統制では認められない相手だったとしても、と彼は言葉を重ねる。
「その時は、デュランダル博士の研究が早々に完成出来るように手助けをするさ」
 そうすれば、どのような相手であろうと子供を得ることが出来るって事だろう……と言うのは事実なのだろう。
 だが、とイザークは心の中で呟く。自分とキラはそういうわけにはいかない。
 もし、そのような場面に直面したら、自分はどうするのだろうか。
 そう考えても、答えは見つけられない。それでも、キラの手を放せないと言うことだけは事実だろう、とわかっていた。