キラの方も心配事が一つ消えてほっとしたのか。表情がかなり軟らかくなっている。
 しかし、それでもここに閉じ込められているというのは否定できない事実だ。そのことが別の意味で彼にストレスを与えなければいいのだが。イザークはそう考えていた。
「疲れているなら、寝た方がいいわよ、キラ」
 同じようにキラを気遣っていたのか。フレイがこう言ってくる。
「それなら、フレイの方が疲れているんじゃない?」
 いろいろとあったでしょう? とキラも不安そうに聞き返した。
「でも、あたしは逃げ回っていたわけじゃないし……あんたに連絡をしてすぐにロンド・ミナ様から電話があったの」
 だから、すぐに保護してもらえたようなものだ……と彼女は微笑み返す。
「ミナさまに?」
 知り合いだったのか、とキラは驚いたように聞き返している。
「前に、オーブ本土に戻ったときにね。お会いしたの」
 キラお薦めのケーキ屋さんで……と付け加えられた言葉には笑うべきなのだろうか。
「ミナさまも、甘いものはお好きだから」
 それに、ラボの写真もよくお見せしていたし、とキラは頷いている。
「フレイに教えたお店も、ミナさまと一緒に行ったこともあるし」
 気に入ってくれたんだ、と微笑む。その表情から判断をして、彼は何も疑っていないのだとわかった。
 だが、実際はどうなのだろう。
 おそらく、ミナは自分の目で《フレイ・アルスター》という少女を見定めたかったのではないか。そして、キラにとって害になるとわかれば排除をしようとしたに決まっている。
 そう考えれば、怖い女性だ。
 しかし、キラにとってはこれ以上ない味方だといっていいかもしれない。
「……いや、キラの回りにいるのは、怖い方ばかりだ、と言っていいかもしれないな」
 ぼそり、とイザークはこんなセリフを漏らす。
「それでなければ、あいつを守りきれなかったって事だろ」
 その呟きを聞きつけたのだろう。ディアッカがそっと囁いてきた。
「否定できないな」
 今回のように直接的な手段を執られたのは初めてかもしれない。だが、キラの話を聞いただけでも、今までに何度か狙われていたことは推測できる。
 だからこそ、自分も値踏みをされたのかもしれない。
「しかし、今回の一件だけで終わると思うか?」
 確かにセイランは失脚するだろう。
 だが、大本は無傷で残っていると言っていい。
「わからないな」
 ザフトも動いている。その事実で相手が警戒をしてくれればそれでいい。
 だが、それがわからないバカがブルーコスモスだといっていいのではないか。
「どちらにしても、俺はキラから離れるつもりはない」
 もっとも、それがいつまでなのかはわからない。軍人である以上、命令には逆らえないのだ。
 それでも、帰還命令が出ていない以上、側にいる。
 帰還命令が出ても素直に戻れないだろうな……とこっそりと心の中で付け加えた。
「はいはい。それって、のろけ?」
 からかうようにディアッカがこう聞いてくる。
「どこをどう聞けば、どう思えるんだ?」
「……普通はそう思うでしょ」
 自覚していないのはお前だけ……とディアッカはため息とともに言い返した。
「いや、キラもか」
 そう考えると、お似合いかもしれないな……と言うのはバカにされているのだろうか。
 いや、自分がからかわれるだけならばいい。
 しかし、キラに自分に対するのと同じような言動をされるのは気に入らない。それどころか怒りすらわいてくる。
 それはどうしてなのだろうか。
「まぁ、キラは本当に箱入りって感じだから、それが正解なんだろうけど」
 あまりにその手の感情に疎いようだから、からかう気にもならない……とディアッカは口にする。それはイザークの気持ちに気付いているから、の言葉だろう。
「第一、そんなことをしてあの世にいくのはいやだしな」
 あの方方から責められるのはいやだ。そうも付け加えている。
「ともかく、フレイは少し横になった方がいいよ。目隠しぐらいなら、用意してもらえると思うし」
 他の部屋までは無理でも、とキラが口にしている声が聞こえた。
「そうだな。その位であればすぐに出来るな」
 イザークが彼の言葉をフォローするかのように言う。
「何なら、二人でねていればいい。幸い、ベッドも二つあるしな」
 キラであれば、隣で眠っていても心配いらないだろう? とフレイに問いかける。
「そうね。キラなら気にならないわ」
 即座に彼女はこう言い返してきた。
「……僕も、男なんだけど……」
 複雑なものを滲ませながらキラは呟いている。
「でも、キラは可愛いんだもん」
 そんな彼に、フレイはこの一言でとどめを刺していた。