結果的にフレイを自分たちが保護したのは正しかったのだろうか。
 地球軍――いや、ブルーコスモスと言うべきか――は証拠を消すためか、彼女が住んでいた家を徹底的に捜索・破壊していったらしい。
 その話を聞いた瞬間、流石の本人も絶句していた。
「……明日から、あたしは何を着ればいいのよ!」
 しかし、心配するのはそれなのか。そう言いたくなるようなセリフを彼女は口にする。
「大丈夫だよ。とりあえず、最低限だけなら用意してもらえるようにするから」
 自分を助けてもらったことだし、とキラが声をかけた。
「冗談に決まっているわよ。パパに買わせるわ」
 もっとも、そのお金が残っていればだけど、と彼女は少し笑みに自重の色を滲ませながらこう付け加える。
「フレイ」
「心配しないで。いざとなったら、どうにでもなるわ」
 パパも、それなりに立ち回っているから大丈夫よ……とすぐに明るい表情で口にした。
「あれでも、自分の立場を守ることだけは得意なのよ。あちらこちらの弱みを握っているって言っていたわ」
 その切り札がある限り大丈夫だろう、と言われても、どこか不安が残る。しかし、それに関しては自分ではどうすることも出来ないとわかっていた。
「とりあえず、当面着替えぐらいなら調達できると思うぞ」
 もっとも、ブランドがどうのこうのといわれたら難しいが、それに関しては安全が確保できてから買いに行け……とイザークは口を挟む。
「イザークさん……」
 キラがいいのかというような視線を向けてくる。
「その位は当然よね」
 あんたには、とフレイはフレイでこう言い放つ。
「ま、いざとなったらミリィに連絡を取ればいいし、そこにいる連中に貢がせてもいいもの。キラが心配することはないわ」
 キラには、後でケーキバイキングに付き合ってもらうから……と彼女は優しい笑みを作って口にした。
「フレイ」
 それは何か違うから、とキラはため息をつく。
「同じよ。あたしには、そう言うことに付き合ってくれる人が必要なの」
 キラ以上に、そう言うことに付き合ってくれる人がいないんだから、とフレイは主張をする。
「……サイは……ダメか」
 キラは誰かの名前を口にして、すぐに首を横に振った。
「そうなのよ」
 甘いものが苦手だから、彼……とフレイもため息をつく。
「同じ理由でトールもダメでしょ」
 だから、キラなのよね……と彼女は続けた。
「……普通は、そうだと思うけどな」
 一つや二つなら付き合えるけど……とディアッカが呟いている。キラ達の話から推測すれば、山盛りなんだろう? と彼は続けた。
「……そんなに多くないよね」
「そうね。一人四つ? 三人で手分けをすれば最大、十二種類食べられるもの」
 それで十分よね、と言うフレイにキラも頷いてみせた。
「十分すぎるだろう、それだけ食べれば」
 って言うか、見たいような気はするが同席したくねぇ……とディアッカは続ける。
「そうか?」
 しかし、イザークはそう言い返す。
「食べろと言われるならばともかく、見ているだけならばそんなに苦ではないぞ」
 実際問題として、と付け加えたのは、母との経験があるからだ。
「……それはお前だけだって……」
 普通はそうじゃないんだって、とディアッカは反論してくる。
「否定はしないな、俺も」
 さらにラスティまでもがこう言ってきた。ということは、それが普通なのだろうか。そう考えて、イザークは少し悩み始める。
「第一、お前も結構、甘いもの好きだろう?」
 でなければ、匂いを嗅ぐだけでもダメ、ってよく聞くぞ……とそうも言われた。
「そんなものか?」
「そうだよ」
 後で知り合いにでも確認しておけ……とディアッカは言い切る。
「……そうだな」
 そうは言われても、そう言うことを聞ける人間がどれだけいるだろうか。イザークは心の中でそう呟いていた。
「ともかく……少し休みたいわ。ついでに喉も渇いたし」
 フレイがこう言ったのが聞こえる。
「そうだね」
 言われてみればそうかもしれない。そう言ってキラも頷いてみせる。
「だそうだ、ディアッカ」
「だとよ、ラスティ」
「……俺?」
 結局、そう言うことになるのか……とラスティは小さなため息をつく。
「はいはい。リクエストがあるか? もっとも、ここにあるかどうかはわからないから、百パーセント叶えられるとは言わないけどな」
 こういうまめさが、彼の魅力の一つかもしれない。
「……紅茶がいいです」
「あたしはアイスティー。ミルク多めで」
 二人が口にしたのは、どこでもありそうなものだ。
「……俺も紅茶がいいな」
 本来であれば、自分で入れたいところだがとりあえず妥協をするしかないだろう。そう考えながら、イザークは口にする。
「はいはい。ディアッカはコーヒーか?」
「そうだな」
「じゃ、貰ってくるから」
 こう口にすると、ラスティはまた出て行く。
「……こき使われる運命だな、あいつも」
 その背中に向かって、ディアッカがこう呟いた。