確かに、キラは誕生方法は自分たちと異なっているかもしれない。だが、その存在そのものが自分たちとかけ離れていない、というのはすぐにわかった。 「……足元に気を付けろ」 小さなため息とともに、イザークはキラの体を支えてやる。 「すみません……」 その事実に、頬を染めながら、彼はこういった。 「気にしなくていい」 巻き込まれたわけではないからな、とふっと微笑む。 「それにしても……ずいぶんと緑が多いな、ここは」 そのまま、話題をそらすように言葉を口にした。 「目を使いすぎたときには、緑を見るといいと言われていますしね。それに……ここには本土や大西洋連邦はユーラシア連邦と言った国々からも留学生が来るから……」 そういう者達には、街中に『緑がない』と言うことは信じられないことらしい。 それがどれだけ贅沢なことかを理解せずに、彼等はそういうのだ……とキラは続ける。 「確かに、そうだな」 地球であればともかく、ここは人工の大地だ。その中にどうやって効率よくものを配置していくか。それが優先される。 だからといって、プラントに緑がないわけではない。 個々の家にはプランターがあるし、公園や街路樹も多い。だが、個人でこのように大きな木を植えられるのは、自分たちのようにある一定以上の権力を持った家柄のものだけだ。 「それでも、ここは学園都市、と言った位置づけですし、これも実験の一種ということみたいですね」 代わりに、モルゲンレーテの施設の方には生け垣程度しか植えられていない。キラはそういって苦笑を浮かべる。 「まぁ、あちらは工場がメインですから……大きな木があると邪魔なんでしょうね」 そう付け加えながら、彼は視線を上空へと向けた。そうすれば、人工の空の向こうにうっすらと今話題に出た施設が見える。 「……プラントの工場プラントに比べれば、それでも緑が多いように思うがな」 彼の地を取り囲むように、人工の森が作られていた。プラントではそのようなことはない。 「あれは……境界線ですから」 あそこから先には足を踏み入れるな、と言う意味だ……とキラは教えてくれる。 「森の中に、しっかりとフェンスがあるんです」 さらに付け加え裸得た言葉に、イザークは少しだけ目を見開く。 「見に行ったのか?」 「……シンが。そういうことが好きなんです、あの子」 小さな笑いと共に付け加えるキラの表情には、悪感情は見られない。むしろ、そういうところが気に入っているのだろうか。 「……俺とディアッカは、嫌われているようだがな……」 彼には、と苦笑と共に言い返す。 「すみません。お二人が来る前に、ちょっとごたごたがあったので、シンは警戒しているだけなんです」 この言葉に、イザークは微かに眉を寄せる。だが、すぐにそれを隠した。 「デュランダル先生が『大丈夫だ』と言ってくださっているのですが、どうしても、それが頭の中から消えないようで……」 普通は、自分が彼の心配をすべきなのではないか。キラはこうも付け加えた。 「それだけ、お前のことが好きなんだろう、あいつは」 イザークは苦笑と共にキラの頭に手を置く。そうすれば、柔らかな感触が伝わってきた。 「しかし、やはり半分、持とう。その方が俺が安心できる」 言葉とともに、彼の手から紙袋を一つ取り上げる。 「いいです。気にしないでください!」 「それこそ、気にするな。半分は俺とディアッカのものだしな」 ようやく、デュランダルがまとまった時間が取れたらしい。それは、その下で学んでいるキラも同様だ、と言うことだ。 それでも、あれこれ気を遣ってくれていたのがわかっている。だから、そのお礼の意味もかねて、ちょっとしたパーティでも開くか、と言い出したのはディアッカだ。ついでに、キラ達との仲をもう少し近づけられればいい、と言うもくろみもある。 シンに関しては、同じ学年にいるレイがあれこれ説得をしてくれているにもかかわらず、相変わらず警戒をいてくれないのだ。それを何とかしなければ、いざというときに困るのではないか。そんなことも考えている。 少なくとも、自分たちには彼に危害を加えるつもりはない。それだけは理解してもらわなければいけないだろう。 「……でも、食べるのはみんな一緒ですから……」 しかし、とキラは首をかしげる。 「ディアッカさん、料理できたんですね」 そのまま彼はこう口にした。 「あぁ。よく言われるな、あいつは。見かけと言動のせいか?」 意外とマメだぞ、と笑いと共に告げる。 「それはいいですね……僕は、一つのことに集中していると、よく他のことは忘れるし……シンも結構ずぼらだから気を付けないと、部屋がカオスになっているんですよね」 生活能力がない人間が二人揃うと大変だ、と恥ずかしそうに口にした。 「見かねて、時々レイが手伝ってくれるから、とりあえず腐海にならずにすんでいるのかもしれないです」 でも、シンの方が生活力はあるかも……とキラは続ける。 「今度は、俺も手伝ってやろう」 部屋を片づけるときには、とイザークは笑う。 「……いえ……そこまでご迷惑は……」 「気にするな。俺が手伝いたいだけだ」 この言葉に、キラは一瞬驚いたように目を丸くする。だが、すぐに微笑み返してくれた。 それに、一瞬見とれてしまう。 同時に、どうしてこんなことを言い出したのか。自分はそんな風に誰かの面倒を見るのは嫌いだったはずなのに……とイザークは心の中で呟いていた。 |