顔見知りが相手だったからだろうか。表情は硬いものの、キラは素直に聞かれたことは話していた。 だが、それがあのパワードスーツのことになった瞬間、彼の舌は凍り付いたように動かなくなってしまう。 「……君が悪いのではない。もちろん、君の友人達も、だ。それはわかっているから、安心してくれていい」 彼にもこんな穏やかで優しい微笑みが作れるのか。 それとも、目の前にいる人物は別人なのか。 あのサングラスを取り上げて確認したくなる。もっとも、それを取り上げても彼の素顔を知らない以上、自分にはわからないのだが。 「ただ、我々としてはあれの矛先を向けられた以上、放っておくわけにはいかなくてね」 それは理解してもらえるね? と言う問いかけに、キラは小さく頷いてみせた。 アスハに連なる者として育てられたからか。ある程度の政治的判断も出来るのか……とその表情から推測をする。 「あれの構造やOSに関しての解析は我々が自分たちでするから構わないよ」 ロンド・ミナからの許可は出ているからね、と付け加えるのはキラの気持ちを軽くさせるためだろうか。 「ミナ、さまからの?」 「そうだよ。必要なら、ご本人に確認するかね?」 今、ここにおいでだからね……と付け加える彼に、キラは小さく首を横に振ってみせた。 「……信用、していますから」 だから、と告げられる声に力は感じられない。だからこそ、それが彼の本心なのだ、とわかる。 「すまないね」 しかし、どうしても彼のこの声音と表情にはなれない。いつ吹き出すか。自分でも自信がない。 人がこれだけ努力しているのに、ディアッカとラスティにいたっては、遠慮なく肩を振るわせている。 そんな彼等を殴りつけてやりたいような気がしてきた。 しかし、必死にその感情を抑える。 そんなことをすれば、キラの不安を煽ることになってしまう。だから、と考える自分は、やはりここに来る前と変わってしまったのだろう。 「あれを開発していた時の指導教官は、誰かな?」 とりあえず、今聞きたいことはそれだけだ。クルーゼのこの言葉に、キラは一瞬だけためらうような表情を作る。 「カトー教授です」 だが、調べればすぐにわかることだ、と判断をしたのだろう。素直にこう告げる。 「そうか」 クルーゼはこの一言共に何かを考え込むような表情を作った。 「確か、彼の親戚が大西洋連合の科学省に勤めていたね」 そちらの関係で、情報を手に入れたのか。それとも……とそのまま呟く。 「まぁ、そのあたりはそこまでにしておこう」 自分たちで調べればいいだけのことだ、と結論を出した。 「ありがとう。それだけで十分だよ」 そして、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。 「あぁ、そう言えば、これを言っていなかったね」 失敗したな……と彼はため息をつく。そのまま、そっと手を伸ばすとキラの頬に触れた。 「君達が無事でよかったよ」 それが一番重要だったはずなのだが、と彼は申し訳なさそうに付け加える。 「しかたがないです。ラウさんは、軍人、なのですから」 ムウさんも、同じように行動すると思いますし……とキラは言い返す。その瞬間、クルーゼが思いきり嫌そうな表情を作ったのはどうしてなのだろうか。 「そうだね」 だが、すぐにこう言葉を返してくる。 「というわけで、私たちはこれで退散しよう。君とイザーク君はもうしばらくここで休んでいなさい」 確実に安全だとわかったら、寮の方に帰れるよう、手配をしてあげよう……とそうも付け加える。 「……ですが……」 「気にしなくていいよ。それはサハクからの正式な依頼、ということになっている」 それに、とクルーゼは意味ありげな表情を作った。 「今は、寮に帰らない方がいいと思うよ」 台風が荒れ狂っているだろうからね、と彼が口にした瞬間、キラの頬が引きつった。いや、彼だけではなく、自分のそれも同じように引きつっているのだろう。 「……ひょっとして、シンとレイの二人が急に呼び出されたのは……」 「役に立つかどうかはわからないけれど、ストッパーといっていたね」 この言葉に、さらにキラの表情が強ばる。 「……ちなみに、その台風は……どっちですか?」 ひょっとして、自分が考えているのとは違う相手なのだろうか。イザークは微かに眉を寄せながらそう考えてしまう。 「寮に行っているのはカガリだそうだよ。モルゲンレーテにも行っているらしいが……そちらは聞かない方が身のためだろうね」 そちらに関しては、ムウに責任をとらせればいいのか。そう言って笑う彼は流石だと言うべきだろうか。 「ムウさんがいっているんですか」 なら、大丈夫かな……とキラはほっとしたような表情を作っている。 「そう。だから、彼等が来るまで君はここにいてくれ」 イザーク達も一緒にいるから安心だろう? と言われて、素直に頷いている所からもそれはわかった。 「そう言うことだからね」 キラの側にいてくれ。そう言いながら、視線を向けられる。ミラーグラスのせいではっきりとは言えないが、そこに鋭い光を感じたのは錯覚ではないだろう。 「もちろんです」 言われなくても、と言外に滲ませるイザークにクルーゼは小さな笑いを漏らした。 |