しかし、どうしてこの男はこうもタイミングが悪いのか。
 先ほどまでとは違った意味で真っ赤になってしまったキラを抱きしめながら、イザークは悪友ディアッカをにらみつける。
「……せめて、ノックぐらいしろ」
 そうすれば、まだ、このような状況にならずにすんだだろうに。
「……悪い……」
 もっとも、相手の方もタイミングの悪さには気が付いたのか。即座に謝罪の言葉を口にする。それだけではなく、そのまま、ドアの影に引っ込んだ。
「でも、怒鳴る前に耳だけは貸しておけよ」
 それでも、即座にこう言ってくるあたり、やはり自分への対処に慣れている。
「……さっさと言え」
 そうして、さっさと消えろ……と言外に続けた。
「とりあえず……クルーゼさんが来ているぞ」
 しかし、予想外のこの言葉にイザークは自分の頬が引きつるのを自覚する。まさか、彼がここに来ているとは思わなかった。
 だが、あり得ない話ではないだろう。そう考えていたときだ。
「……ラウさん?」
 しかも、キラが彼の名前に反応してくれた。
「知っているのか?」
 反射的に問いかけてしまう。
「うん……ムウさんの、親戚」
 それに、キラはこう言葉を返してくる。
「あの人か……」
 脳内に、先日あった人物の面影を思い浮かべながらイザークは呟く。
「……似ていると言われれば、似ているか」
 同じようにディアッカも彼の姿を想像しているのだろう。こんなセリフを口にしている。
「だから……月にいた頃は、よく、遊んで貰っていたよ」
 さらに付け加えられた言葉に、イザークは目を丸くした。どう考えても、自分たちが知っている彼とキラの記憶の中にいる彼がイコールで結ばれないのだ。
「……そう、か」
 頬を引きつらせながらも頷いてみせる。
「でも、ラウさんがどうして……」
 キラはこう言って首をかしげてみせた。
 それに何と言葉を返すべきか。下手なことを言って、自分たちが《ザフト》の一員だとまだ知られない方がいいだろう。
 もちろん、いずれは話さなければいけないだろうが。
「……デュランダル博士に呼び出されたと言っていたぞ」
 そんなことを考えていた時だ。まるで助けを出すかのようにディアッカがこう言ってくる。
「ひょっとしたら、例のことで協力をさせるつもりなんじゃないのか?」
 ザフトには健康な男女――と言っても女性陣は少なめだが――がいるから。彼はそうも続ける。
「……否定は、出来ないですね……」
 確かに、サンプルは多い方がいいから……とキラはため息をつく。
「でも、どうしてラウさん……」
 普通はもっと上の方に頼むのではないのか。彼はこうも付け加える。
「個人的な知り合いなら、頼みやすいのではないか?」
 あまり大々的に協力を依頼しては大騒ぎになる可能性があるだろう、とイザークは口にした。だから、彼を通して、あくまでも内々にしようとしているのではないか。
「完成しているなら話は別だろうが」
 とりあえず、コーディネイターの精子と卵子で成功するかどうか、を確認しなければいけないのだろう? とも付け加える。
「……かも、しれません」
 とりあえず、キラはそれで納得をしたようだ。
「それで……そのクルーゼ隊長が何かしたのか?」
 人の邪魔をしてでも呼びに来たのだから、それなりの理由があるのだろう? とディアッカに問いかける。
「あぁ、そうだった」
 忘れていた、と彼はため息をつく。
「お前の体調がいいようなら、話を聞かせて欲しいそうだ」
 もちろん、彼の方がこちらに来ると言っていた。そうもディアッカは付け加える。
「……断るわけにはいかないだろうな」
 自分の立場であれば、とイザークは心の中で付け加えた。
「だよなぁ」
 じゃ、そう言うことで連絡をしてくるから。こう言うと同時にディアッカはきびすを返したようだ。
「イザークさん」
「何も心配はいらない。たまたまここに足を運んでいたとはいえ、彼は有能な人物だと聞いている。だから、後始末を任されたのだろう」
 なら、協力をするのは当然のことだ。そのイザークの言葉に、キラも小さく頷いてみせる。
「お前の知り合いなら、何の心配もいらない。そうだろう?」
 さらにから買うように付け加えれば、キラも納得したようにまた頷いた。
「しかし、残念だったな」
 からかうようにイザークがこう言えば、彼は首をかしげてみせる。
「もう一度ぐらい、キスをしたかったのだが……いつ来られるかわからないからな」
 全てが終わってから付き合って貰おうから構わないか。そう続けた瞬間、キラの顔が真っ赤に染まった。