頭を殴られたからだろうか。そのまま、あれこれ検査へと回されてしまった。
 しかし、医療機関とまけない機器が揃っていると言うことは、やはりここはザフトの拠点なのだな、と改めて認識をする。
 もっとも、今はそれはどうでもいいことではないだろうか。
「大丈夫だ、キラ」
 今は彼の不安を取り除く方が優先だろう。
「どうやら、自分でも思っていた以上に石頭だったようだ、俺は」
 脳波にも何も異常はない。ただ、大事をとって休んでおけ、と言われただけだ。そう言って微笑む。
「……でも……」
 しかし、この一言は逆効果だったのか。キラの瞳が潤み出す。
「また、ぼくのせいで……大切な人を失うかもしれないって……」
 そう考えたら、凄く怖くなったのだ。キラはそうも付け加える。
「でも、俺は生きているぞ?」
 そうだろう? と口にしながら、そっとキラの体を引き寄せた。自分の上にのしかかるようにさせた彼の目元に、イザークはそっとキスを贈る。
「ちゃんと、温かいだろう?」
 自分の体は、と付け加えればキラは小さく頷いてみせた。それでも、一度崩壊してしまった涙腺はそう簡単に復旧できないらしい。彼の涙がイザークの頬を濡らす。
「心配するな。もう、こんなミスはしないさ」
 そのまま、今度はキラの顔を自分の肩に押し当てた。
 冷たい感触が広がってくる。しかし、彼は泣き顔を見られたくないだろう。そう考えれば、このくらい、何でもない。
「……お願いだから、僕をかばわないで……」
 そのためにケガをされるのはいやだ、とキラは告げる。その位なら、自分を見捨てて逃げて欲しい、とも。
「好きな相手を見捨てて逃げられるはずがないだろう?」
 その位なら、自分が傷ついてでも相手を守ろうとするのが当然のことだ。イザークはそう言い返す。
「その前に、もっと強くなればいいだけか、俺が」
 キラを守っても傷つかない程度に、とため息をつく。
 今回は途中で気が抜けたのか、注意力が落ちていた自分のミスだ。普段なら、そんなことはないのに、と心の中で付け加える。
「ひょっとして……カナードさんが強いのもそのせいか?」
「……カナード兄さんは、昔から強かったよ?」
 それに、キラはこう言い返してきた。
「僕が勝てるのは、プログラミング関係だけ、かな?」
 その他はまったく歯が立たない。一緒にあれこれ学習してきたのに、とキラは続ける。だが、まだイザークの肩から顔を上げようとはしない。
「……そうか」
 あるいは、キラの見ていないところで努力を重ねてきたか、だ。
 どちらにしても、そのあたりは見習うべきなのだろう、とイザークは思う。少なくとも、これからもキラの側にいようと思うならば、だ。
「ともかく、だ」
 だからといって、自分にも譲れない一線がある。
「俺はきっと、同じようなことを繰り返すだろうな」
 そんな自分なら、お前は嫌いになるか? とイザークは問いかけた。
「お前にそう言われても、俺は諦めきれないかもしれないからな。その時は、プラントに戻るしかないだろう」
 勉強を途中で放り出すのは不本意だが、キラを悲しませるのはもっといやだ。そうも付け加える。
「……イザーク、さん……」
 まさか、イザークがこう言ってくるとは思わなかったのか。キラは驚いたように顔を上げる。
「それでも、きっと、お前を好きなままなのだろうな、俺は」
 そう言えば、さらに彼は目を丸くした。
「キラ」
 そんな彼に向かってイザークは笑みを向けた。
「な、んでしょうか……」
 どうしていいのかわからない。キラの瞳がそう告げている。それが可愛いと思ってしまうのは、いけないのかもしれないが、と思いつつイザークは言葉を重ねる。
「キスしても構わないか?」
 この問いかけに、キラはさらに目を丸くした。
「……キス?」
 言葉の意味がすぐには理解できない。そんな様子で、キラは言葉を口にしている。
「そう。構わないか?」
 自分とキラの力の差を考えれば、無理にしようと思えば出来るだろう。だが、イザークはそうしたくない。
「……僕と、キス?」
 ようやく、イザークの希望が飲み込めたのか。キラの頬が赤く染まっていく。
「キラ?」
 いやか? とイザークはまた問いかけた。
「……いや、じゃない……」
 キラは小さな声でこう囁いてくる。
「なら、目をつぶっていろ」
 この囁きとともにイザークはそっとキラの後頭部に手を添えた。そして、自分の方に引き寄せる。
 イザークの言葉の通り、キラは静かに目を閉じてくれた。