イザークと共にキラは医務室に避難をさせた。
「……しかし、ここにまでブルーコスモスの構成員が入り込んでいたとは……」
 ゆゆしき事態かもしれない。こう言って、ラウはため息をつく。
「確かに、な」
 もっとも、オーブのようにナチュラルがいないだけ人数は絞られるのではないか。こう言い返してきたのはミナだ。
「それだからこそ、一人しか動けなかったのだろう」
 もし、複数犯だったならば、きっと厄介な事態になっていたはず。そうも彼女は付け加えた。
「かもしれませんね」
 ラウは微苦笑を彼女に向ける。
「それでも、あの子を危険にさらしてしまった……と言うのは事実です」
 あの子を守るためにあれこれ画策してきたのに、と彼は続けた。
「それに関しては我らも同罪だ」
 セイランを失脚させるつもりが失敗してしまった、とミナは微かに眉を寄せる。
「こうなるのであれば、多少の混乱は覚悟してでも、手っ取り早い方法をとるべきだったな」
 そうすれば、もっと早く、この状況を何とか出来たのではないか。そうも口にする。
「ですが、それでは他国につけいる隙を与えてしまったのではないでしょうか」
 プラントにしても、オーブは魅力的だ。
 それでも、最高評議会がまだ直接動かないのは、キラの持つデーターと可能性が必要だからだ。そして、それを完成させるためのオーブの助力も、だ。
 オーブの利権を手に入れるよりも、そちらの方が切実に必要なものである以上、これ以上、彼等が引っかき回すようなことはないはず。
 となれば、問題はやはり大西洋連合をはじめとする者達だ。いや、ブルーコスモスと言い直してもいいかもしれない。
「……まぁ、今回のことでセイランは終わりだろうがな」
 小さな笑いと共にミナが呟く。
「そうですね」
 アスラン達をこき使った甲斐があった、とラウも頷き返す。
「……後は、後始末でしょうが……」
 しかし、すぐにあることを思い出して顔をしかめる。
「問題は、あの二人――いや、三人ではありませんか?」
 カガリ・ユラとロンド・ギナ。そして、一番厄介なのは間違いなくカナードだろう。彼等三人が動いてくれたら、こちらの努力があっさりと無に帰してくれるのではないか。
「だから、フラガを呼び寄せている」
 少なくとも、前者二人は抑えてくれるだろう。ミナは平然とそう言いきった。
「ミナさま」
「あれも少しは苦労すればいいのだ」
 こうまで言い切られるとは、彼はいったい何をしでかしたのか。ふっとそんな疑問がわいてくる。
「カナードは……当面はこちらには関わってこないはずだ」
 別件を依頼してあるからな、とさらにミナは言葉を重ねた。
「あれが心配していたキラの安全は、どうやらお前の部下が身を挺してでも守ってくれそうだしな」
 だから、大人しく依頼を引き受けてくれたぞ……と彼女は笑う。
「そうですか」
 イザークも苦労をするな、とラウは心の中で呟く。だが、自分にそれがのしかかってこない以上構わないか。そうも続ける。
「なら、我々は今回のことの後始末に専念しましょう。一番怖いのは、キラの精神状態ですが……」
「全くだ。よりにもよって、キラが開発に関わったあれを引っ張り出してくるとは……」
 モルゲンレーテの方も膿を出し切らなければいけないか。ミナはそう呟く。
「まぁ、いい。そちらに関してはギナとカガリを矢面に立たせる」
 そうすれば、彼等の気持ちも収まるだろう。この言葉に、ラウは苦笑を浮かべた。
「オーブ国内のことに関しては、お任せします」
 自分たちは同胞の安全の確保と、人工子宮の研究支援を優先する。そう告げれば、彼女は頷き返した。
「それで十分だ」
 そうしてもらえれば、自分たちは安心して動ける。この言葉に、ラウは頷き返す。
「では、また後日。今回のことに関して証言をしてもらうことになるかもしれない」
 こう言いながら、彼女はきびすを返す。そのまま歩き出そうとして、彼女は不意に足を止めた。
「あぁ、そうだ」
 そのまま、視線だけラウの方へと向けてくる。
「何でしょうか」
 どこか楽しげなその表情に逆に恐怖を感じてしまう。それでも、表面上は普通の口調で聞き返した。
「例の件だが、一人はヤマト家に預けてくれるのであれば構わないと言っていたぞ。もっとも、成功すれば、の話だが」
 ギルバートにそう言っておけ。それだけで彼女の言葉の意味が理解できた。
「彼等には、そう伝えておきます」
 だが、二人にとってはそれはプラスに働くのではないか。そう思えば、自然と笑みが浮かぶ。
「では、また後で」
 この言葉とともに、今度こそミナは部屋を出て行く。後は、彼女たちに任せるしかないのだろう。
「……まったく、私に出来ることはほとんどないようだね」
 だが、キラの安全を今確保することが出来るのは自分だけだ。そう判断をすると、ラウは立ち上がる。
「ついでに、あれの解析をさせて貰おうか」
 そうすれば、技術部が喜ぶ。そう呟くと、指示を出すために彼も部屋を後にした。