何とか、相手を押さえつけると同時に、ディアッカ達が駆けつけてきた。
「……何、そいつ……」
 おそらく、状況をうまく把握できていないのだろう。ディアッカがこう問いかけてくる。
「ブルーコスモスのスパイ、だ」
 襲われた、と端的に言い返す。
「……あららら」
「本当、どこにでもわいてくるな」
 こう言いながら、ディアッカとラスティはイザークの腕から犯人を取り上げる。
「それで? お前はともかくキラは?」
 少しは自分の心配もしろ、とそう言いたい。だが、こうして動いている間は大丈夫だと彼は思っているのだろう。自分も同じように判断をするから文句も言えない。
「部屋の中だ。無事なはずだ」
 とりあえず、そいつを抑えておけ。そういうと同時にイザークは立ち上がる。その瞬間、足元がふらついたのは、気が抜けたからだろうか。
「……キラさんの無事を確認させて頂いたら、あなたを医務室に連れて行った方がいいですね」
 レイが顔をしかめながらこう言ってきた。
「大丈夫だとは思うが……」
 別に、とイザークは言い返す。
「頭でしょう? 今は大丈夫に見えても、実は……と言う可能性があります。その時に、キラさんを悲しませるおつもりですか? いくらコーディネイターが丈夫だとは言っても、不死ではないのですよ?」
 ぎゃんぎゃん騒がれるだけならば、いくらでも受け流すことが出来る。しかし、こんな風に理路整然に――なおかつ、情に訴えることも忘れない――言われては納得しないわけにはいかないのではないか。
「……わかった……」
 渋々ながら、頷いてみせる。
「ついでに、キラさんを休ませてもらえれば、安心できるんだけどな」
 シンもこう言ってきた。
「確かに。その方が部外者を追い出しやすいかもしれない」
 医務室であれば、迂闊な人間が来ればわかる。監視もしやすいだろう、とラスティも頷く。
「……凶器になるものも多いが、な」
 それに関しては、何とかするしかないだろう。言葉とともにため息をはき出しながら、イザークはドアの方へと歩み寄った。
 しかし、ドアはすぐに開かない。
 どうしてだろうか、と一瞬悩む。だが、すぐに癖でロックをかけたのだと思い出した。
「……やはり、微妙に意識が飛んでいるのか?」
 こう呟きながら、イザークはロックを解除する。
「大丈夫か?」
 あきれているのか。それとも、おもしろがっているのか。微妙な声音でディアッカが問いかけてきた。
「うるさい!」
 そんな彼に、イザークは即座に言い返す。
 それにタイミングを合わせるかのようにドアが開いた。
「イザークさん!」
 同時に、転がるように飛び出してきたキラが抱きついてくる。予想もしていなかったその行動に、イザークはふらついてしまう。
「大丈夫ですね?」
 だが、キラにはキラなりの理由があったようだ。
「あぁ……大丈夫だ」
 みんなも無事だぞ、とそんな彼を落ち着かせる意味もあって声をかける。
「もっとも、この後、医務室に行って頂きますが」
 それなのに、レイはこう言ってくれた。
「どうしたの?」
 心配そうな表情でキラが見上げてくる。
「……ちょっと、頭を殴られただけだ。心配はいらないと思うが……検査をしてもらえ、と言われてな」
 その方が安心出来るだろう、とも言われては反論も出来ん……とそう付け加えた。
「でも、抜け出してきそうですから……キラさんが見張っていてください」
 さらりとレイがこう続ける。
「見張り?」
「そうです。俺たちはまだしばらく、後始末に走り回らないといけないので」
 キラが適任なのだ。そういう彼の話の進め方に、イザークは舌を巻いた。そう言うことならば、キラ大事の彼がこう言い出したのも納得できる。
「多分、すぐにギルかフラガさんが駆けつけてくれるとは思いますけど」
 それまでの間でもいいから、と言われて、キラは頷いてみせた。
「……でも、シンも?」
 レイはまだ納得出来るが、と彼は首をかしげる。
「俺は……ミナさまの使いっ走りだそうです」
 フラガが来たら、キラの方に回ってもらうから、しかたがない。シンは苦笑とともに言葉を返す。
「カナードさんが出てくる事態だけは避けたいですから」
 その言葉にキラは頬を引きつらせている。
「そう、だね」
 でも、絶対にどこかで見ているんだ、と小さなため息をつく。それに、誰も反論できなかった。