そこには、ミナの言葉通り、既に全ての機器がすぐに使える状態で置かれていた。しかも、プラントでも最新鋭の機器が揃っている。
「うわっ!」
 それを見た瞬間、キラの瞳が輝いたのは錯覚ではないだろう。
「……使えるか?」
 まぁ、その気持ちはわかる。心の中でそう呟きながら、イザークは問いかける。
「うん」
 でも、と彼は小首をかしげた。
「必要なプログラムは流石に入ってないか」
 手早く中身を確認しながらキラは呟く。
「……用意させるか?」
 それでは、彼等は危険から逃れられない。そう思ってこう問いかける。
「それじゃ時間がかかりすぎるから……あぁ、プログラミング用のツールはあるのか」
 なら、この場で組むのが早いか。キラはそう言って笑った。
「組む?」
 ここで? とイザークは言い返す。
「うん。前に作ったことがあるから、時間はかからないよ」
 この言葉が嘘ではない、とすぐにわかった。
 キラのプログラミング能力が卓越していたことは知っていた。しかし、これほどまでに凄いものだとは思わなかった、と心の中で呟く。
 自分だってキータッチは早いほうだと思う。
 だが、キラのそれはまさしくピアノを奏でているように心地よいリズムすら刻んでいる。
 それに見とれていた自分がいたことは否定できない。そのせいで注意が散漫になっていたこともだ。
「……出来た」
 三分と経たないうちにキラの手が止まる。
「みんなは、まだ無事だよね?」
 キラがモニターを見つめたままこう問いかけてきた。
「おそらく、な」
 この場からは確認できない。それでも、外に増援が向かっていないところから判断をしてまだ大丈夫ではないか。
「レイとシンはともかく、ディアッカとラスティは殺しても死ぬような連中ではない」
 そして、あの二人がシン達を先に傷つけさせるような事をするはずがない。イザークはこう告げる。
「……うん、そうだよね……」
 みんな、優しいから。
 この言葉とともに、キラは一度目を閉じる。
 しかし、すぐにその瞳は見開かれた。そこには強い光がたたえられている。彼のそんな力強い瞳を初めて見たような気がするのは、イザークの錯覚ではないだろう。
 あるいは、これがキラ本来の輝きなのかもしれない。
「……ちょっと、非合法な手段も使うけど……見なかったことにしてね」
 この言葉とともにキラはまたキーボードをたたき出す。
 しかし、今度は一瞬だった。
「多分、これで止まるはず……」
 そう言いながら彼はエンターキーを叩く。
 少し間をおいて、外から響いてきていた音が止まる。
「……どうやら、あれは止まったようだな」
 イザークはそう呟く。
「とりあえず、確認してくる。お前はここで待っていろ」
 絶対に出るな。こう言い置くと、イザークは部屋を出る。その時に、ドアをロックしていたのはほとんど無意識の仕草だったのではないか。
「……サハクのミナさまは……外か?」
 彼女にキラと一緒にいてもらえれば安心できるのだが。
 そう呟きながら、視線を先ほど入ってきたドアの方へ向ける。
 その時だ。
 いきなり後頭部に衝撃を受ける。
「……ぐっ……」
 それでも反射的にその犯人と思える相手を蹴り飛ばしていたのは、訓練の賜物だろうか。
「貴様……」
 意識を失わなかったことも僥倖だったかもしれない。
 次の攻撃は何とか避けることが出来た。
「ブルーコスモス、か?」
 どう見ても同胞コーディネイターとしか思えない相手に向かって、イザークはこう問いかける。その声音に、いつもの力がないことも自覚していた。
「まさか、ここまで入り込んでいたとは、な」
 チェック体勢を改めさせなければいけないのだろうか。
 ともかく、こいつを何とかしなければいけない。だが、殴られたせいか視界が歪んできている。このままではまずかもしれない。
「イザークさん?」
 この気配が伝わったのか。キラがドア越しに声をかけてきた。それに、犯人の挙動がおかしくなる。
「心配するな、キラ!」
 だから、出てくるな!! と彼に告げると、イザークは改めて相手をにらみつけた。
 持っている凶器は、自分を殴りつけた棒のようなものだけらしい。と言うことはこの男にしても予定外の行動だ、と言うことか。
 体調がいつもの通りであれば何と言うことはない相手だが、今のそれではどうだろうか。
 しかし、キラを奪われることはもちろん、心配をかける訳にもいかない。
 だから、と拳を握りしめた。