人工子宮。
 それが、このカレッジで行われている共同研究の内容だった。
「……マジですか?」
 プラントでは切望されているそれも、ナチュラルが多いオーブで必要だとは思わなかったのか。ディアッカが驚いている。彼の父は医療関係のエキスパートだから何か別の理由があるのかもしれないが。
「本当だ。オーブにも第二世代が多いからね」
 その他にも、コーディネイターとナチュラルの間に生まれてくる子供達も……とデュランダルは口にする。
「それに……ナチュラルにも様々な理由で自分の胎内で子供を育てられない女性もいる」
 その言葉に、二人は目を見開いた。
「そういう女性に、子供をあきらめろ……と言っても、できるものではないからね」
 己の子供をその手に抱きしめたい、というのは女性の本能なのかもしれないね、と少し悲しげに微笑む。
 と言うことは、あの噂は本当なのだろうか。
 ふっとそんな疑問がわき上がってくる。しかし、それの真偽を問いかけるような無礼なマネは出来ないだろう。
「……キラは、それにどのように関わっているのですか?」
 代わりに、こちらの疑問をぶつける。
「……どういう意味かね?」
 こちらの真意を探るように逆に彼は聞き返してきた。
「ひょっとして、情報処理の方に進みたかったのに、遺伝子工学を専攻しろって言われたって、キラが言っていたが……それが関係しているって思っているわけ、お前」
 イザークの代わりにディアッカが言葉を口にする。
「あぁ。先ほど、他の教授からもデーター処理を頼まれている、と聞いたからな。あいつのレベルはかなりなものだと推測できる。普通なら、そちら方面の才能を伸ばせ、と言うのではないか、と思っただけだ」
 実際、家がそうだったし……と彼は苦笑と共に付け加えた。
「家も、だな」
 でなければ、自分がザフトに入隊することなど認められなかったのではないか。イザークも頷いてみせる。
「あいつも、遺伝子工学よりは情報の方をやりたかったようだし……それなのに、現状に甘んじている、と言うことはそれなりの理由があるものと思っておりましたが?」
 言葉とともに、視線をまたデュランダルへと戻す。
「……その通りだよ……」
 そこまでキラが二人に話をしていたとは思わなかった。彼は小さなため息とともにそうはき出す。
「ここからは、できれば他人には知らせたくない話だ。キラのプライベートに関わるからね」
 だから、それを知ってしまった以上、いやでも君達には動いてもらう。そうも付け加える。
「最初からそのおつもりだったのでは?」
 だから、自分たちをここに派遣させたのではないか。ストレートにそう問いかける。
「確かに、そうだけどね」
 でも、と彼は微苦笑を浮かべた。
「真実を知っているのといないのとでは、キラに対する接し方が変わって来かねない。私は大人だからそれをあの子に悟らせるようなことはしないが、君達はどうだろうね」
 つまり、それだけ厄介なものを彼は背負っていると言うことか。イザークはそう判断をする。
「……知っていると、まずいことでしょうか」
「そう思うよ」
 少なくとも、彼を見る目が変わってしまう。
 デュランダルはそういいきった。
「……それでも、聞かずにミスをするよりは知っていた方がよろしいかと」
「そうですね。俺たちは初対面同様ですから。多少、接し方が変わっても悟られない可能性の方が強いかと」
 第一、多少のことで相手に対する見方を変えるほど、了見は狭くないつもりだ。そうされることがどれだけ嫌なことなのか、一番よく知っているのは自分たちだし……とそうも付け加える。
「確かに。むしろ、そういう意味ではここの方が気楽に過ごせるかもしれませんからね」
 ディアッカも頷いてみせた。
「……その言葉、信用して構わないね?」
 それをどう受け止めたのか。しつこいほどに彼は確認してくる。
「もちろんです」
 イザークだけではなくディアッカもしっかりと言い切った。
「……ユーレン・ヒビキとヴィア・ヒビキ、と言う名前を聞いたことがあるかね?」
 一瞬のためらいの後、彼はこう問いかけてくる。
 イザークにはその名前に聞き覚えはない。だが、ディアッカは違ったようだ。
「確か……メンデルの遺伝子研究所の所長と、その奥方の名前だったかと……親父が口にしたのを聞いたことがあります」
 そう言葉を返している。
「そういえば、そこでも人工子宮の研究が進んでいたとか……」
 タッドも何度か足を運んだことがあるそうだ。彼はそうも付け加えた。
「……今は違うのか?」
 そのような場所があるなら、ここで研究をしなくてもいいのではないか。言外にそう問いかける。
「ブルーコスモスのテロで、二人ともなくなった、と聞いたぞ。確か、俺たちが生まれたあたりだったと思うが」
 彼が生きていたら、今頃……とタッドが悔しがっていたから、とディアッカが言ってきた。
「正確には、十七年前、だね」
 デュランダルが静かに口を挟んでくる。
「お二人があの子の本当のご両親だよ」
 そして、と彼は不意に声を潜めた。
「公にはなっていないが……既に人工子宮は実用化の一歩手前まで研究が進んでいたのだよ」
 実際に、あれから生まれた子供達もいたのだ。そう彼は続ける。
「デュランダル博士?」
 まさか、と思いながら二人は彼を見つめた。
「キラも、そのうちの一人だ」
 だからこそ、彼は厄介な立場に置かれている。特に、オーブ国内で。その言葉に、イザークはことの深刻さを理解した。