学内でも人目が多い場所を選んで校門の方へと向かう。 冷静な表情を作りながらも、イザークの内心はそうではなかった。せっかく、いい雰囲気になったのに余計なことで水を差されてしまった。 その事実が悔しい……と心の中では怒り心頭だ。 だが、それを口にしてキラを不安にさせるわけにはいかない。その思いだけで表面上は冷静さを保っていた。 「イザークさん!」 何かに気が付いたのか。キラが焦ったように声をかけてくる。 「わかっている」 まさか、人目もはばからないとは……とあきれたくなった。 「こっちだ!」 とっさにキラの腕を取ると、わざと相手の方に向かって駆け出していく。手薄な方に逃げた場合、罠を仕掛けられている可能性がある。 だが、今、自分が見ている状況が正しいのであれば、連中の背後には増援はなさそうだ。だから、連中さえ交わせば時間が稼げるのではないか。 「……イザークさん?」 しかし、キラには予想外の判断だったらしい。驚いたように彼の名を呼んでくる。 「大丈夫だ。任せろ」 虚を突かれたのか――あるいは、反撃などあり得ないと思っていたのか――相手は判断に迷っているらしい。その状態であれば、自分一人でも何とかなるはず。 「襲ってくる奴がいれば、構わないから鞄を振り回せ」 掴まらなければ大丈夫だから。そう続ける。 「……うん……」 それにキラが頷いてみせる気配が伝わってきた。 「心配するな。俺もディアッカも……不本意だが身を守るための技術は身につけているから」 あの程度の人数なら、何とでも出来る。 真実とは違う。それでも、キラを安心させるには十分なのではないだろうか。 「信じてるから……」 イザークを、とキラは言い返してきた。 「わかっている」 口ではこう言い返しながらも、イザークはうれしさを隠せない。そういう状況ではないとわかっていても、だ。好きな相手からそう言われることがこれほど自分を奮起させるものだと言うことも、初めて実感したような気がする。 だからこそ、ここでキラを奪われるわけにはいかない。 いったい誰が一番与しやすいだろうか。 目の前にいる者達の中で一番腰が引けているであろう相手をとっさに判断をする。そこから崩していくのが一番だろう。 後は、そのままどこかに逃げ込めればいいのだが。 「……ラスティ?」 どうやら、誰かから連絡が行ったのか。視線の先で彼が手を振っているのが見える。 「どうせなら手伝え」 思わず、こう呟いてしまう。 だが、彼はこちらに来るよりも自分たちが相手に接触することが早いこともわかっている。 だから、彼も動かないのだろう。 そう考えながらイザークは身構える。 「キラ! 俺には構わず、真っ直ぐにあいつの所へ行け!」 いいな、と口にした。 「イザークさん?」 「お前がいない方が動きやすい」 キラを人質に取られれば、自分は動けなくなる。だから、付け加えた。 「でも……」 「俺ならば、大丈夫だ。だから、言うことを聞いてくれ」 頼む、と付け加えれば、キラも納得してくれたのか。 「……でも、無理だけはしないで……」 こう言い返してくる。 「わかっている」 まだ、デートもしていないしな。そう付け加えていたのは、少しでもキラの心を和らげようとしてのことだ。 「イザークさん!」 「と言うことで、全てが片づいたら、一緒に出かけよう」 キラが好きなケーキの食べ歩きでもいいかもしれないな。そんなことを付け加えながら、目の前の男に向かって肩から体当たりをする。 「走れ、キラ!」 その動きを止めながら、イザークは叫ぶ。 キラも、この状況で自分が出来ることはない、とわかっているからだろうか。素直にラスティの方にかけていく。 その後を他の連中が追いかけようとしていた。 「行かせるか!」 だが、急な方向転換に、相手のバランスが崩れている。その隙を見逃さずにイザークは相手の足をすくった。 そのまま相手が倒れ込んだのを確認して、イザークもまたキラの後を追いかける。 もちろん、相手もそう簡単にはいかせてはくれない。しかし、人目が集まっているせいか、迂闊な行動を取れないというのも事実だ。 誰かが通報をしたのか。どこからか警察がこちらに向かっている音も聞こえてきた。 流石に、これはまずいと思ったのだろうか。相手の追求の手も弱まる。 「イザーク!」 その隙をついて、イザークはキラ達と合流をした。 |