「……結局、押し切られたって訳だ」
 デュランダルからの荷物を横目に、ディアッカがこう言って笑う。
「……言うな……」
 あの笑顔に逆らえなかったのだ。イザークはため息とともにこう言い返す。
「断れると思ったのだがな」
 断りの言葉は、見事に受け流された。そう告げる。
「だから、大丈夫? って言ったのに」
 キラが苦笑と共に言葉を投げかけてきた。いや、彼だけではなくシンとレイも同じような表情を浮かべている。
「……ひょっとして、お前達、全員、経験済み?」
 ディアッカが疑問をぶつければ、さらに彼等は苦笑を深めていく。間違いなく、それが答えなのだろう。
「……確かに、必要だと言うことはわかっているんだけど……女性陣の中には卵子を提供させられた人もいるし……」
 ひょっとしたら、よく聞こえてくるデュランダルの艶聞は、それを目的としているのかもしれないとまで言われている。
「サンプルは多い方がいいとはわかっているのですが……」
 しかし、流石に……とレイが言葉を濁した意味も想像が付く。だが、プラントの人間であれば妥協するしかないだろうな、とそう思う。
「開き直るしかないんだろうな」
 生まれてくるかもしれない《命》にも責任を持たなければいけない。
「だが、それは当然のことだ」
 どのような生まれ方をしようとも自分の子供には違いないだろう。だから、引き取ることが許されるなら、思い切り可愛がってやりたい。そうも付け加える。
「……イザークさん……」
 そんな彼の言葉に、キラが複雑な声音で呼びかけてきた。
「大切なのは、どうして生まれたのか、ではなく、望まれた存在かどうか、だろう?」
 そして、生まれた後にどれだけ愛されてきたのか。そちらの方が重要ではないか。
 オーブにだって養子という制度はある。そうして家族になった者達は、不幸ではないのだろう? とイザークは付け加える。
「違うのか?」
 確認するように問いかければ、キラは泣き笑いに近い表情を作った。
「そうですね。俺もギルとは血縁はありませんが……多分、家族と言っていい関係ですし……十分幸せだと思っています」
「そう言われれば、うちもそうかな」
 両親はいないけど、後見人が凄くいい人だから……とシンも頷いてみせる。
「それに、だ。お前達の研究が完成すれば、あれから生まれてくる子供も増えてくるだろう?」
 だから、当然のことだ。そう結論づける。
「確かに、な」
 何かを察してくれたのだろう。ディアッカも口を開いた。
「少なくとも、コーディネイターにとって子供は望んで手に入れるものだから、愛さないはずがない。どのような生まれでも、幸せになる権利はあるんだしさ」
 それをどうこう言う連中は、自分の世界しか知らないバカだ。そうも彼は言い切る。
「そうだな。子供を産めないと言うだけで、辛い思いをさせられた女性も多いしな」
 歴史書にそれこそたくさん記述されているから、とイザークも頷く。
「そのような女性が、どれだけ自分の子供を抱きたいか。少し考えればわかることだろうに」
 だから、自分は、誰がどうやって生まれてきたのかは気にしない。重要なのは、その人間の中身の方だ。
 以前、キラに話したのと同じ言葉を繰り返したのは、それが自分の本心なのだと告げたいからかもしれない。
 他の者達がキラを否定しても、自分だけは違う。
 誰よりもキラ自身がそれを信じてくれなければ前に進めない。だから、とことあるごとに繰り返すことにしたのだ。
「そうだな。そっちの坊主の言うことは正しいと思うぞ」
 しかし、いつの間に来たのか。
「ムウさん」
 それよりも、キラが彼に親しげな表情を見せるのが気に入らない。
「デュランダル先生とのお話は終わったのですか?」
 しかし、彼にとってあの男は信頼できる相手なのだろう。何よりも、自分は彼等がどのような関係だったのかを知らない。
 ひょっとして、それがわからないのが気に入らないのか。
 たんに、警戒心が強くなっているだけだ、と思いたい。心の中でそう呟く。
「とりあえずは、な。まぁ、しばらくはこっちにいるから、また顔を出すことになるだろうけど」
 本当。誰かさんの尻拭いは辛いな……とため息混じりに彼はそう付け加える。
「と言うわけで、ユウナ・ロマ・セイランの呼び出しは無視していいから。無視できそうもないときには、すぐに俺に連絡を寄越せ」
 いいな、と彼は続けた。
「……ムウさん?」
 キラは訳がわからない、と言う表情を作る。
「ウズミ様の許可が出ているから、気にするな」
 それよりも勉強に集中しろとおっしゃってたぞ、とも彼は口にすると微笑んでみせた。
「ともかく、お前さんが大人しくしていてくれないと……カガリ嬢ちゃんが爆発する」
 それだけは避けたいのだ。そうも付け加える。
「……確かに……」
 嫌そうな表情でシンが同意をした。
 いったい、何をしでかしたのか。ちょっと興味があるな……とイザークは心の中で呟いていた。