イザークがキラと共に研究室に顔を出したときだ。何故かデュランダルに手招かれる。
「……何か用事か?」
 あるいは、何か連絡が来たのかもしれない。
 そうでなかったとしても、彼の元に行かないわけにはいかないだろう。
 押しかけた以上、しかたがあるまい。そう呟きながらキラの側から離れる。
「大丈夫ですか?」
 不安そうにキラが問いかけてきた。
「大丈夫だろう。お前と違って拒否権もあるらな」
 嫌なことを言われたら断ればいいだけのことだ。言葉だけではなく、キラを安心させるように微笑んでみせる。
「……なら、いいのですけど……」
 でも、あれこれ言われているからなぁ……とキラは視線を彷徨わせていた。と言うことは、とんでもないことを言われたことがあるのだろうか、と不安になってくる。
 しかし、一度「大丈夫だ」と言ってしまった以上、それを態度に表すわけにはいかない。
「また、後でな」
 覚悟を決めるとイザークはデュランダルの元へと歩み寄っていく。
「何でしょうか?」
 そのまま、こう問いかけた。
「君に頼みたいことがあってね」
 こちらへ、と微笑みながらさらに奥へと彼を誘う。
 人前で出来ない話なのか、とその態度から判断をする。しかし、それはどのような内容なのだろうか。あるいは、本国から連絡が来ているのかもしれない。
 そう判断をして、彼の後を付いていく。
 背後でドアを閉めれば、デュランダルは意味ありげな笑みを浮かべた。
「先日のバカどもは、きちんと梱包した上でオーブに送り届けられたそうだよ」
 ロンド・ギナ・サハクが腕によりをかけて取り調べをしているそうだ、と彼はその表情のまま伝えてくる。
「そうですか」
 確か、サハクの双子はキラを可愛がっていると聞いている。ロンド・ミナの方には先日あったが、それは間違いないと確信していた。ならば、ロンド・ギナの方も同じなのだろう。
 絶対に、裏を全部白状させられるまでは許してもらえないのではないか。
「なら、その件に関してはオーブに任せておくのがいいでしょうね」
 自分たちが下手に口を出さない方がいいだろう。言外にそう告げれば、デュランダルもまた頷いてみせる。
「だが、これで終わったわけではなさそうだからね」
 何やら、セイランに関してあれこれきな臭いものが見つかっているらしい。だからこそ、起死回生の策としてキラを自分たちの手の中に取り込もうとしているのではないか。周囲はそう推測しているのだ、と彼はため息をつく。
「あの子の存在があれば、いくらでも富を生み出せる。そう考えているのだろうね」
 キラはきちんとした人格を持った人間だ。決して、都合のよい道具ではないというのに……と付け加えられた言葉には、思い切り同意だ。
「……今の、あいつの自信のなさは、セイランに否定されてきたからかもしれませんね」
 自分はコーディネイターだから、他人の役に立たなければいけない。そういわれてきたようなことを言っていたから……とイザークはため息とともに口にする。
「どうやら、君達をこちらに寄越すように頼んで、正解だったようだね」
 キラがそんな風に自分のことを話すのは珍しい。そう言ってデュランダルは微笑む。
「しかし、そういうことを言われ続けていたとは……いつからなのか、確認した方がいいだろうね」
 おそらくは、人目がないときにだろうが……と彼は表情を一変させるとこう呟く。
「でしょうね」
 少なくとも月にいた頃はアスランが側にいたはず。ある意味、自分に負けないくらいプライドの高いあの男が、コーディネイターキラを道具扱いされて黙っているはずがないのだ。
「それに関しては、任せておいて貰おう」
 どうやら、アスハが助っ人を一人送り込んでくれたようだからね……とデュランダルは頷いてみせる。
「今頃、ディアッカ君と顔を合わせている頃かもしれないね」
 そんなことまで彼は口にした。
「……本当ですか?」
 いったい、いつの間に……とそう思う。
「私も、今朝、聞いたのだがね」
 どうやら、ニコルの護衛として付いてくるはずだった人物を強引に交代させてそういう話になったらしい。彼は、夕方には他のものと合流することになっているから、その間であれば構わないだろう。そういう理由らしい。デュランダルはそう告げる。
 しかし、それを鵜呑みにしてもいいものだろうか。
「彼も、私たちの知り合いでね。キラ君とも親しくしていた人物だよ」
 シンも知っているはずだ、とデュランダルが付け加えたのは、自分の内心を推測したからだろうか。
「そうですか……」
「あぁ。後でこちらに顔を見せると行っていたから、その時に確認すればいい」
 いったい、どこまで用意周到なのか。
 そう言いたくなるのをイザークは必死にこらえる。
「わかりました。その時は声をかけてください」
 代わりに、こう告げた。
「まぁ、色々と覚悟をしておくのだね」
 意味ありげな笑いと共に彼は言葉を返してくる。
「それと……話は変わるが」
 君達に頼みたいことがあるのだがね。そう付け加えながら彼は小さな箱のようなものを自分の方に引き寄せる。
「……何でしょうか……」
 任務に関係があることだろうか。それとも、キラが言っていたことか……と心の中で呟きながらと聞き返す。
「君達の精子を貰っても構わないかね? 近いうちに必要になると思うのだが」
 自慰をして試験管にとった後にこのケースに入れてくれればいい。後は自動に冷凍してくれるから……と彼は続けた。
「……はぁ……」
 キラが言っていたのはこの事か、とイザークは心の中で呟く。
「頼んで構わないかね?」
 そう問いかけられても、すぐには答えを返せない。さて、どうするべきか。イザークは脳内で必死に考えていた。