そのころ、ディアッカは宇宙港へと足を運んでいた。
「ったく……」
 いきなり呼び出すんじゃねぇ、と呟きながら周囲を見回す。そうすれば、見覚えのある若草色をすぐに発見することが出来た。
「……誰だ?」
 だが、その隣には見覚えがない人影がある。
「まったく……」
 厄介ごとはごめんだぞ、と思わずこう呟いてしまった。どう見ても、あの動きは訓練された者しか持ち得ないものなのではないか。
 それなのに、どうして……と心の中で呟く。
「……あちらが気を遣って、と言う可能性もあるのか」
 一応、ニコルは公賓扱いだったはず。だから、留学生扱いの自分たちとは違って護衛が付いてもおかしくはない。
 しかし、これから自分たちがしようとしていることに関してだけ言えば、ありがた迷惑だとしか言いようがないのではないか。
「連れてきてしまった以上は、しかたがない」
 断れなかった本人に責任をとって貰おう。そう呟くとディアッカは彼等の方へと歩いていく。
「ディアッカ! 遅いですよ」
 どうやら、自分の姿に気付いたらしいニコルが、可愛らしく頬をふくらませながらこう言ってくる。
 見た目だけは、本当に可愛い。
 だが、中身は凶暴を通り越して凶悪だからな……と心の中で呟きながら、ディアッカはかるくてをあげる。
「そういうなって……寮からここまでどれだけ時間がかかると思っているんだ?」
 しかも、お前が連絡をしてきたのは、まだ眠っていた時間だ。そうも付け加える。
「……僕は普通の時間に連絡をしましたよ?」
 そんな時まで眠っているなんて、とニコルはあきれたような視線を向けてきた。
「ここと本土では時差があるからな……あちらで夕方なら、こっちは夜明け前だ」
 そんな彼を注意してくれたのは、一緒にいた軍人らしい人物だ。その言動が、どこかの誰かに似ているような気がするのは錯覚だろうか。
「……ニコル?」
 誰だ、と言外に滲ませながら問いかける。
「こちらの方は、オーブの軍人で……フラガ三佐です。丁度こちらに用事があると言うことで、お付き合い頂きました」
 この言葉に、警戒心を抱いてしまったのは、昨日の今日だから、だろうか。
「サハクのロンド・ミナ様に呼び出されたんだよな」
 それに気が付いたのだろう。彼はこう言って笑ってくる。
「ついでに、ウズミさまとトダカ一佐から、キラとシンの様子も見てこい、と言われているんだが……知っているよな、寮にいるなら?」
 フラガのこの言葉に、ディアッカはさらに目をすがめた。どこまで信用していいのか、と思ったのだ。
「本当ですよ。この方はオーブではキサカ一佐と共にカガリ・ユラ・アスハさんの護衛をされていましたから」
 だから、セイラン一派ではない。言外にニコルはそう付け加えた。
「そうか……すみません、ちょっとごたついていたんで」
 ディアッカはそう言って頭を下げる。
「……ユウナ・ロマ・セイランが一足先に来ていると聞いていたが……やっぱりか?」
 キラにちょっかいを? と最後だけは囁くように問いかけてくる。
「……否定できません……」
 どこまで話をしていいのかわからないので、とりあえず言葉を濁しておく。
「ラウの部下は、みんな真面目だな」
 しかし、これのセリフは何なのか。
「……あの……」
「適当な部屋を押さえてくる。お前さん達は、その間に内緒話を終わらせておいてくれるとありがたいな」
 問いかけるよりも先に、相手に行動を開始されてはどうすることも出来ない。
「……ニコル……」
 こうなれば、八つ当たりの矛先は彼に向けるしかないだろう。
「僕に言わないでください」
 それこそ、ここに来る最中にバラされて、とても驚いたのだ。ニコルはニコルでこう言い返してくる。
「一番の問題は、絶対にあの人だと思いますけど?」
 自分たちの上司、とニコルは唇の動きだけで伝えてきた。
「否定は出来ないな」
 自分たちがキラの側に配置されたのも、イザークか自分が彼を好きになるかもしれない、と思ってのことかもしれない。
「と言うことは、隊長はキラとも知り合いって事になりかねないな」
「可能性は否定できませんね」
 ディアッカの言葉にニコルも頷いてみせる。
「もっとも、キラの方は隊長が隊長だと知らない可能性の方が高いけど、な」
 プラントにいることは知っている可能性は高いが、とディアッカは続けた。
「そうなのですか?」
 ニコルが即座にこう問いかけてくる。
「あぁ。プラントに知り合いもいるんだが、その人物が今どうしているのかはわからない、と言っていたからな」
 徹底的にプラントの情報から切り離されていたのではないか。それはきっと、彼が『プラントに行く』と言い出さないようにと考えてのことかもしれない。
「それも、セイラン一派の仕業かもしれないな」
 イザークを応援しているが、これはこれで厄介なハードルかもしれない。ディアッカはそう考える。
「どちらにしても、こちらにはアスランとラスティも来ているからな。人手は何とかなる。問題は……」
「オーブ首脳陣の動き、ですね」
 相変わらず、察しはいい。おかげで話が早く進むな、とそう心の中で付け加えた。
「あぁ。それがわからないうちは下手に動けないしな」
 キラを守るためにどこまでしていいのか。それを見極めないとな。ディアッカはそう心の中で呟いていた。