朝食のために寮の食堂へ行けば、そこにはキラ達がいた。
「おはよう、キラ」
 大丈夫か、と口にしながらさりげなくその側に腰を下ろす。そうすれば彼は「はい」と頷いてみせた。その頬が、少しだけ赤く染まっているのは自分の錯覚ではないだろう。
「よく眠れたようだな」
 それは、自分を意識してくれているからだろうか。
 だとしたら、嬉しい。そう思いながらこう問いかける。
「……はい……」
 はにかんだように、キラは頷いてみせた。それに、シンとレイが少しだけ目を丸くしているのが見える。どうやら、キラのこの姿に驚いているらしい。
「……それにしては、食事の量は相変わらずか」
 プレートの上に乗っている料理の量は自分たちの半分程度ではないのではないか、と思う。
「少ない、ですか?」
 これで十分なのだが……とキラは問いかけてくる。
「……その代わりにケーキを食べても、意味はないんですよ、キラさん」
 即座にレイがこう言ってきた。
「カロリーだけじゃ意味がないんですよ?」
 さらにこうも付け加える。
「わかっているけど……食事は、あまり食べられないんだ……」
 何でだろう、とキラは首をかしげた。
「まぁ、あまり無理はするな」
 無理に食べようとして体調を崩しては本末転倒だろう。イザークは苦笑と共に視線を向ける。
「そうですね」
 確かに、とレイも頷いてみせた。
「……でも、もう少し食べてもいいと思うんだけど……」
 キラは最近、少しやせたようだから……と言ってきたのはシンだ。
「そう、かな?」
 本人は自覚がないのだろうか。首をかしげている。もっとも、イザークにしてもはっきりとは言い切れないのだ。
「……確かに、そうかもしれません」
 確認するように視線を向けられたから、だろう。レイが頷いてみせる。
「ここしばらく、あれこれあったからな」
 しかたがないのではないか、とイザークはフォローするように口にしておく。
「少しずつ増やしていけばいい」
 量も体重も……と付け加えれば、キラは小さく頷いてみせた。
「と言うことで、まだ食べるのであれば付き合ってくれ」
 ディアッカはさっさと出かけてくれたからな、とイザークはそう付け加える。
「講義、ですか?」
 違うだろう、と言う響きと共にシンが問いかけてきた。
「いや。女性に呼び出しを食らったようだ」
 あいつは人当たりがいいから、結構もてるらしい。プラントでは、それなりに相手をしていたようだが、こちらではそういうわけにはいかないだろう。
「断りにいくと言っていたな」
 そうも付け加える。
「断りに?」
「あぁ。あいつにだって好みはあるから」
 下手に期待を持たせるよりも、きっぱりと断った方が親切だろう。そうも続けた。
「逆恨み、されないのか?」
 嫌そうにシンがこう言ってきたのは、間違いなくこの前の事件があったからではないのか。
「そこまでは、わからないな。だが、適当に相手をしていても結果的には同じ事だろう」
 だから、きっぱりと振ってくる。そう言っていた。イザークは言葉を返す。
「……しかし、どうしてあれなのか……」
 顔がいいだけならば、他にもいるだろうに……とそうも続ける。
「だよな。レイも人気があるわりには告白されないし……」
 顔だけではないのか、とシンは首をひねっていた。
「だって、レイは……」
 キラが口を開きかけて、慌てて自分の手で押さえる。
「どうかしたのか?」
 その様子にイザークは不審そうに問いかけた。
「……言ってもいいですよ、キラさん。別に、俺はそれに関してはどうも思っていませんから」
 そう言いたい奴がいるのであれば、それはそれで構わない。代わりにレイが先に口を開く。
「レイ?」
「……俺とギルが出来ているとかそういうことを言っているバカがいるだけだ。何故か、女性陣はそれを聞くと喜ぶらしい」
 だから余計に広まってくれただけだ、と彼は淡々とした口調で告げる。
「問題なのは、最近、それにキラさんも巻き込まれていることだがな」
 勝手に話を捏造されているだけならばまだしも、それが現実として伝わっていくのは厄介だ。レイはそうも付け加える。
 それを耳にして、イザークはある可能性を思いつく。
 あの男もそれを耳にしたのではないか。だから、あのような行為に及んだのかもしれない。
「……厄介だな、それは……」
 本人達は楽しんでいるだけに文句も言いづらいだろうし、とイザークは呟く。
「そうですね」
 ともかく、キラの側を離れないようにするしかないのか。ディアッカが何かを掴んできてくれればいいのだが。そう心の中で付け加えた。