お互いの情報を交換していたときだ。ディアッカが思いきり嫌そうな表情を作った。
「ディアッカ?」
 どうかしたのか、とイザークは問いかける。
「……いいんだけどな、別に……」
 そう言いながらも、彼はさらに視線を彷徨わせていた。
「ディアッカ」
 言いたいことがあるなら、はっきりと言え……とイザークは彼をにらみつける。
「……のろけを聞かされているようだったな、と思っただけだ……」
 まぁ、キラが可愛いと言うことには反論しないけど……と彼はそうも続けた。
「ディアッカ?」
 今、それは関係あるのか……とイザークは言外に問いかける。
「関係あると言えば、あるけど……無いとも言えるか」
 ともかく、キラがどのような環境に置かれていたのか。それは気にかかる……と彼は口にした。
「おそらく、それはオーブに戻ってからここに来るまでの間、だろうな」
 アスランの話が本当なのであれば、という言葉に、イザークも頷いてみせる。
「確かに」
 少なくとも、そんな幼い頃からあの男が一緒だったのであれば、自分が《コーディネイター》だからといって、何も恥じることはないのだと教えていたはずだ。むしろ、それを自慢してもいいと告げるくらいのことはしていただろう。
「となると、シンからの報告を聞かないとだめと言うことか」
 少なくとも、ここに来てからはそんなことはなかったはず。そう考えれば、後考えられるのはそう言うことではないだろうか。
「……厄介だな」
 キラがアスハの関係者だというのであれば、そんな時期に接触できる人間はオーブの首長家に関わるものではないだろうか。
 イザークは、それが《ユウナ・ロマ・セイラン》ではないか、と考えていた。
「……早々に、あいつをキラの側から排除する必要があると言うことか」
 そうでなければ、研究の方にも支障が出てくるのではないか。
 もちろん、これが建前だと言うことは否定しない。本心はキラが笑っていてくれれば、それでいいのだ。
「でも、相手は一応《セイラン》だからな」
 それこそ、国を揺るがすようなスキャンダルでもない限り難しいのではないか。
「……本人を脅すしかないのか」
 ぼそり、とこう呟いてしまう。
「それこそ、国家問題になりかねないぞ」
 気持ちはわかるが、とディアッカがため息をついた。
「恋愛関係によるごたごた、ならそうはならないだろう」
 調べたぞ、とイザークは言い返す。
「マジ?」
「あぁ。実際に、そういう事件もあったようだからな」
 母の世代には、とそうも付け加える。その時も、個人的な事件を国家間の紛争に持ち込まないと言うことで決着がつけられている。しかも、それを言い出したのはオーブの方だから、とイザークはさらに言葉を重ねた。
「そうか。まぁ、キラには悪いが、その時には今回のことを交渉材料に使うしかないんだろうな」
 襲われていたキラを守ろうとしただけだ。
 それで押し通すしかないのではないか。ディアッカはこう言ってくる。
「……その時に考えるさ」
 キラを利用したくはないから、と言い返す。
「わかっているって。しかし、アスランがこちらに顔を出せないのもセイランのせいって言っていたしなぁ」
 やっぱり、あいつらがガンなのではないか。彼はため息とともにこう告げる。
「セイラン、か」
 あの一族がプラントどころかオーブにいる同胞コーディネイターにとっても害悪だというのはわかりきっていた。
 それでも、自分たちではどうすることも出来ないのだ。
「……キラから、何とかして遠ざけるぐらいしか、出来ない……と言うのは、本当に歯がゆいな」
 後は、側から離れない……と言うくらいしかできないのだ。
「その間に、一生懸命、アピールしなって」
 頑張れ、とディアッカは笑う。
「お前、な」
 あきれていいのか、それとも……とイザークはため息をつく。
「キラの意志を優先してくれる人はいるんだろう? なら、そいつらを味方につければいいだけじゃないか」
 違うか? とディアッカは問いかけてくる。
「そうだけ、どな」
 だが、一番の問題はキラだろう。こう言ってため息をつく。
「どうすれば、自分に素直になってくれるのか。それが問題だな」
 まずはそれが先決だろう。でなければ、いくら周囲でやきもきしていても意味がない。しかも、あの様子だとかなりハードルが高いのではないか。
「……諦めるのか?」
 なら、とディアッカは見つめてきた。
「諦めるわけないだろう」
 そんなことが出来るくらいなら、とっくに自分の気持ちを封印している。そう言い返す。
「だったら、努力するしかないだろう?」
 お前が、と言われれば反論できない。
「……わかった。他のことは、全部お前に一任する」
 自分はキラのことにだけ専念させて貰おう、と口にするのが精一杯だった。