キラに、一通り寮の案内をして貰った。彼の説明は的確でわかりやすい。それは、彼が情報の取捨選択をきちんと出来ているからだろうか。 そう考えていたときだ。 「二人とも、良く来たね」 デュランダルに呼び止められたのは。 「デュランダル博士」 「お久しぶりです」 顔見知りだと言うことは知られていることだから、多少親しげにしても構わないだろう。そう判断をして、二人は笑みと共に挨拶をする。 「……デュランダル先生」 しかし、キラは少し違った。 「やはり、顔写真ぐらいは見せて欲しかったです。お二人に声をかけるのに、僕は十分ぐらい悩みました」 でなければ、レイを同行させて欲しかった……と恨めしげに付け加える。 「それでも、きちんと彼等を案内してきてくれただろう?」 何よりも、と彼は笑みを深めた。 「十分うち解けられたようだね。イザーク君は気むずかしいから心配していたのだよ」 この言葉に、イザークは微かに眉を寄せてしまう。だが、そんな彼の隣ではディアッカが「その通りだ」というように頷いている。 「どうでしょうか」 しかし、キラは不安そうにイザーク達へと視線を向けてきた。 「少なくとも、お前の存在は不快ではない。だから、気にするな」 「とこいつが言っているってことは、かなり気に入られたってことだから。安心していいぞ」 イザークの言葉の後、即座にディアッカがこう言う。 「……否定はしない……」 確かに、キラの存在は気に入っている。それだけではない何かも感じているような気もするが、まだはっきりとはわからない。 「そういうことだよ」 しかし、この男の予想通りの行動をとってしまった……と言うのは少し面白くないような気もする。 「あ、キラさん!」 そう考えていれば、廊下の端から声が響いてきた。自分の名前を呼ばれたからだろう。キラが視線をそちらに向けた。 つられたようにイザークも視線を移動させる。そうすれば、年下とわかる少年がこちらに向かって駆け寄ってくるのがわかった。 「……シン。廊下は走らないで、っていつも言っているでしょう?」 「だって、ずっと探していたんですよ?」 朝から、とシンと呼ばれた少年は頬をふくらませている。 「レイも探していましたし……」 さらに付け加えられた言葉に、キラは少し困ったような視線をデュランダルに向けた。 「デュランダル先生……」 二人に説明をしてくれていたのではないか、とキラはそのまま問いかけている。 「あぁ、すまない。忙しくて忘れていたよ」 苦笑と共に彼は肩をすくめた。 「シン。心配しなくていい。キラは私の用事で人を迎えに行って来たのだよ」 変な虫に拉致されたわけではない。その言葉に、シンが憮然とした表情を向ける。 「当たり前です! キラさんは優しいから、それにつけ込むバカが多いって先生もご存じでしょう!」 だから、キラをあまり一人で行動させたくないのに……とシンは主張した。 「……シン……」 キラが小さなため息とともに口を開く。 「僕は幼年学校の生徒じゃないんだけど」 付き添いが必要な年齢ではない、とそう言い返している。 「……そうは言いますけどね、キラさん。昨日だって、カトー教授からあれこれ押しつけられそうになっていたじゃないですか!」 ただでさえ、キラが処理しなければいけないデーターは多いのに。シンはそういいながらキラの側にすり寄っていく。 「……カトー教授にも困ったものだね」 さらにデュランダルがこう言ってため息をついた。 「先ほどの会議の席でも、苦情を告げたのだが……聞き入れてくれるつもりはなさそうだったね」 こうなると、こちらでシャットアウトしなければいけないか……と彼は目をすがめる。 「まぁ、そういうことだからね、キラ。何があっても、彼からディスクを受け取らないように」 周囲から何かを言われたら、自分を通すように言っていたと伝えなさい……とデュランダルはそれでも優しい口調で告げた。 「気を付けます」 キラは小さな声でこう告げる。 「困ったときには、すぐに連絡をするように」 さらに付け加えられたデュランダルの言葉から、彼がキラを気に入っているのだと推測できた。 しかし、それは彼が有能だからなのだろうか。 それとも、別の理由があるのか。 「と言うことで、私は彼等ともう少し話をしたいからね。君達は部屋に戻りなさい」 夕食の時に声をかけてくれれば嬉しい。そう付け加えるデュランダルに二人とも頷いてみせる。 「では、また後で」 そういってキラは頭を下げた。しかし、側にいるシンはこちらを値踏みするようににらみつけている。 「シン。君も」 今日から同じ寮で生活をするのだから、と言うキラの注意を受けてようやく頭を下げる始末だ。 「……警戒されてねぇ?」 二人の姿が視界から消えたところで、ディアッカが呟く。 「それに関しても今から説明をしよう。とりあえず、彼が今、一番危ないポジションにいるのだよ」 だからこそ、誰よりも早く君達に会わせたかったのだ。デュランダルのこの言葉にイザークの表情が引き締まった。 |