部屋に戻ってきたディアッカは、イザークのベッドでキラが眠っていることに驚いたらしい。それでも、彼を起こすようなマネをしなかった。それだけでもマシだ、と思うべきだろうか。 「……って言うことは何だ? しびれを切らしたバカ坊ちゃんは、逆ギレをしてとんでも行動に出た、と考えればいいのか?」 イザークの説明を聞いて、こんな感想を口にする。 「ならいいんだがな」 最初から、キラをそういう目で見ていた可能性もあるのではないか。イザークはそう言い返す。 「……まさか……」 「ない、とは言い切れないだろうが」 イザークの感情は脇に置いておいて、とディアッカは言葉を綴り出す。 「キラは可愛い顔をしているし、男としては華奢な方だろう? まぁ、それなりに筋肉は付いているけどな」 それでも、一般の人間程度ではないか。 そういう好みの連中にはその程度は気にすることがないに決まっている。 「……それに、さ」 あんまりいいデーターじゃないかもしれないけど、とディアッカは顔をしかめた。 「昔から、あちらこちらに子供を作らないように、浮気は男とって考えている奴もいるんだよな」 しかも、キラとカガリは双子だ。二卵性だとしても、顔はよく似ているのではないか。彼はそう吐き捨てる。 「……下種が……」 キラは都合のよい道具ではない。 きちんと自分の意志を持った一人の人間だ。 それを、自分に都合がいいからと言ってその意志を無視するような行動をとるような奴を許せるはずはないだろう。 「しかし、カレッジ内でもキラを一人に出来ないとなると……かなり厄介だな」 自分たちだけでは手が回らないのではないか。言外に彼はこう言ってくる。 「とりあえず、レイと出来るだけ一緒に行動させてくれるよう、デュランダル博士に頼んでおかなければいけないだろうな」 彼が一緒であれば、万が一の時にもすぐに対処が取れるだろう。そう判断をして、イザークはこう告げる。 「それしかないだろうな」 キラに、勉強をするなとも言えないだろうし……とディアッカも頷いてみせた。 「寮に閉じ込めておいても、ここにも入り込んでこないとは限らないしな」 本当に困ったものだ、とそう口にしながらも、イザークはそっとキラの髪を撫でる。 「だから、さっさと告白しちまえって」 その様子を見ながら、ディアッカがため息とともに言葉を口にした。 「……キラだって、間違いなく、お前のことが好きだぜ」 「そこに、希望的観測が入っていないとは言い切れないからな」 それに、とイザークは視線をキラへと落とす。 「俺が迂闊な言葉を口にして、こいつの感情をねじ曲げたくない」 キラが自分自身の意志で自分を選んでくれるのであれば、大歓迎だが……とそう続けた。 「本当、お前、真面目だよな」 「悪かったな」 思わずこう言い返す。 「いや。そう言うところがいいんじゃねぇ?」 少なくとも、キラはだからこそ、安心してお前を頼っているんだろう。そう言ってくる。 「そうだといいのだが」 こう言い返しながらも、無意識のうちに笑みが口元に浮かぶ。 「と言うことで」 言葉とともにディアッカは立ち上がった。 「……ディアッカ?」 「とりあえず、シンにはキラがここにいると話してくる。ついでに、あいつからオーブ本土で何が起こっているのか確認して貰えばいいだろうし」 他にも、デュランダルにも話をしてこなければいけないのではないか。 もちろん、それだけではないはずだ。 ラスティと連絡を取るつもりなのではないか。 「わかった。頼む」 「もちろんだって。俺だって、キラは気に入っているんだからな」 恋愛感情じゃないけど、と彼は笑い返す。そのまま、部屋を出て行く後ろ姿を見送ると、イザークは小さなため息を漏らした。 「あいつにも、気を遣わせているのかもしれないな」 自分とキラが二人きりになれるように、とそう呟く。 「それを無駄にしないようにしないとな」 言葉とともに、再びキラの顔を見下ろす。今の会話でもどうやら彼の眠りは妨げられなかったらしい。 「……しまったな……」 そう言えば、キラの着替えを持ってきて貰うよう頼むのを忘れたと言う事実を、今思い出してしまった。 「まぁ、その時は俺の服を貸せばいいだけのことか」 だが、すぐにこう思い直す。 多少サイズが合わないかもしれないが、それはそれで可愛いだろう。 「……ゆっくり眠っていろ」 この言葉とともにイザークはそっと身をかがめる。そして、キラの目元に触れるだけのキスを贈った。 |