「……カナードさんの許可が出たなら……」 小さなため息とともにシンはこうはき出す。 「と言っても、俺が知っているのは本当に少しですからね?」 月にいた頃の話は別の人間に聞いてくれ。彼は言外にこう告げる。 「構わない。そっちに関してはアテがある」 と言うよりも、ほぼ入手できていると言っていいのではないか。まぁ、それが一方的な意見だというのはわかってはいたが、とりあえず状況はつかめる。 「あぁ……キラさんが『友達がプラントにいる』って言っていたっけ」 その人と知り合いなんだ、とシンはあっさりと納得をした。 「……俺ではないがな」 デュランダルの、と慌てて付け加えたのは、キラにあれこれ余計なことを伝えられたくないからだ。 「……あの人も、よくわからないよな。キラさんのことを本気で心配しているのだけは嘘じゃないみたいだけど」 でも、時々いじめているようだし……とシンは続ける。 「優秀だから、だろう、キラが」 だから、出来るか出来ないかのぎりぎりのところであれこれやらせているのではないか。とりあえず、そうフォローをしておく。 「だといいけどな」 ともかく、とシンはため息をはき出す。 「話を元に戻すけど、ユウナ・ロマ・セイランは、カガリ・ユラ・アスハと結婚したいと思っているんだよ。一方的に」 そうすれば、セイランはアスハを取り込めると思っているから……とシンは言葉を綴り出す。 しかし、だ。 それには隠された障害があった。 キラだ。 「キラさんとカガリ・ユラ・アスハは、双子なんだってさ」 実のご両親が亡くなられたときに、キラさんはお母さんの妹さんに引き取られて、カガリはお父さんの知り合いだったウズミ様に引き取られたと聞いた。シンはそう続ける。 「でも、キラさんってものすごく優秀じゃん。それに、キラさんを引き取った人も、ウズミ様の従兄弟だし。だから、もし、カガリ・ユラ・アスハがユウナ・ロマ・セイランと婚約をするのなら、アスハの次代はキラさんに、と言う意見も出ているわけ」 自分としては、その方がいいのではないか。そう思う、とシンは正直に口にする。 「……なるほど。それでは当初の目的が果たせないわけだ……」 アスハの利権も手に入れるという……とイザークは頷く。 「そう。だから、キラさんに先に『アスハとは関係ありません』という書類を作らせておきたいらしい」 それでなければ、セイランの誰かと養子縁組をするとか。そうすれば、セイランはどちらも手に入れられるから。 「でも、そんなことになったら、キラさんは利用されるだけだ」 あいつらは、コーディネイターを都合がいい道具としか思ってないから。その言葉に、あの日、ユウナ・ロマに感じた嫌悪感の正体に気付く。 キラに向けていたのは、人間を見る視線ではなかった。 あくまでも、自分にとって有益な道具。 それを手に入れようと眺めていた視線だ。 「……キラさんが学部移動したのも、そのせいだって、俺は考えていた」 あのままでは、すぐにでもモルゲンレーテに入社するように強要されただろう。その結果、望まぬ仕事をさせられたかもしれない。 「それよりは、ここで新しい知識を増やす方が、キラさんのためだと思うし……」 居心地もいいのではないか。そうシンは締めくくる。 「……なるほど」 とりあえず、キラが置かれている状況はわかった。後は、と思いながらイザークは口を開く。 「いくつか、質問をしてもいいか?」 確認をしておきたい事実がある、と付け加えれば、シンは頷いてみせた。 「カガリ・ユラ・アスハとキラの仲は、悪くないんだな?」 この言葉に、シンは思いきり首を縦に振ってみせる。 「悪くないどころか、ものすごく仲がいいと思うぞ。時間があれば押しかけてくるくらいだし」 流石に、カレッジには『邪魔になるから』と言って来ないようだけど……とシンは告げた。 「……代わりに、カナードさんが時々顔を出すから、かな?」 彼の場合、しっかりとキラの成績も確認していくけど……と苦笑と共に付け加える。キラが頭が上がらない人物の一人だし、とも彼は続けた。 「お前も、か?」 「否定しない」 でも、とシンは首をかしげる。 「あんたは、あの人の気に入られたのかな?」 話してもいい、と言われたって事は……とそうも付け加える。 「だといいがな」 あの怖い人物を敵に回す勇気はない。言外にそう付け加えれば、シンは苦笑を浮かべた。 「でも、あの人がキラさんに『好きな相手が出来たら、応援してやるから告白しろ』って言ってくれたし……それだけでも、来てもらってよかったかな?」 いつもはものすごく緊張するのだ、と彼は続ける。 「だろうな」 自分ですらそう思うのだ。シンではなおさらではないだろうか。 「……だが、キラがそれで思い切ってくれるなら、それはそれでいいかもしれない」 できれば、その相手が自分であればいい。イザークはそうも考える。 「とりあえず、だいたいの状況はわかった」 同時に、誰が黒幕なのかも……と心の中だけで呟く。これは、不本意だがアスラン達にも連絡をしておいた方がいいだろう。 しかし、それはディアッカにさせてやる。 イザークはそう決心していた。 |