事態が収拾をしたのは、それから十分もかからなかった頃だ。
「……さて、これをどうする?」
 簀巻き、と言うのが正しい状況に置かれた者達を見下ろしながらディアッカが問いかけてくる。
「それこそ、デュランダル博士に任せるしかないだろう?」
 処理を、とイザークは言い返した。
「しかし……迂闊に連絡を入れれば、キラにばれるな」
 何とか、デュランダルだけを呼び出せればいいのだろうが。その口実をどうするか。
「……普通にした方がいいんじゃないのか?」
 あまり深く考えない方がいい、とディアッカは言い返してくる。
「そうだな」
 下手にあれこれ口にするよりも、ストレートにデュランダルを呼び出した方がミスは少ないのではないか。イザークもそう判断をして頷いてみせた。
「ストレートに『デュランダル博士に用事がある』と言うべきだろうな」
 その内容までは説明しなくてもいいだろうか、と口にしながらも、イザークは端末へと手を伸ばす。
 もう、確認しなくてもわかる番号をタイプしてデュランダルの部屋のそれを呼び出した。
『どうかしたのかな?』
 にこやかな口調でデュランダルがすぐに応答をしてくる。
 そろそろだと考えていたのか。それとも、これが彼の寮監としての態度なのか。それに悩みながらもイザークは口を開く。
「とりあえず片づきましたので……これからどうすればいいか、相談に乗って頂けますか?」
 とりあえず、無難だと思えるセリフを口にする。
『ご苦労様。すぐに行くよ』
 デュランダルもまた笑みを深めるとこう言葉を返してきた。
「お願いします」
 言葉とともに通話を終わらせる。
「後は、博士に任せればいいだろう」
 言外に、キラのことは……と付け加えた。
「そうだな」
 ディアッカも頷いてみせる。
「……しかし、これで終わればいいんだが……」
 この執着ぶりでは無理だろうな、と彼はさらにため息をついた。
「だろうな」
 ひょっとしたら、今も別働隊が……と言う不安もないわけではない。しかし、そんな目立つことをするだろうか。
「……デュランダル博士の部屋にいてくれれば、まだ対処が取れるか」
 あれこれ考えすぎて動けなくなるのはまずいだろう。そう判断をして、自分にこう言い聞かせるように口にした。
「そうそう。連中だって、俺たちが対処していたことに気付いてびっくりしてたんだ。予想していなかったって事だろう?」
 逆に言えば、次はまずいと言うことではないか。
 それに関しても、対策を考えておくべきだろう。その程度の苦労は、苦労ではないから。
 もちろん、それはキラのためだからだ。
 そんなことを考えていた。

 ロンド・ミナ・サハクも『怖い』と感じたことは事実。だが、それは《畏怖》と言う感情だったはず。
 しかし、目の前の相手に感じるのは《恐怖》だ。
 下手に手を出せば、自分の方が負ける。いや、そうでなくても勝てないのでははないか。
「……なるほど……」
 そう考えていれば、相手がふっと表情を和らげる。その瞬間、周囲に漂っていた圧迫感に近い空気が薄れた。
「ロンド・ミナが気に入るはずだ」
 そして、こう口にする。
「とりあえずは、合格点を出してもらえるのかね?」
 苦笑と共にデュランダルが彼に問いかけた。
「とりあえず、キラの側にいることは認めてやろう。少なくとも、シンよりは使えそうだ」
 もっとも、あいつはあいつで別の役目があるが……と彼は付け加える。
「誰だ、あいつ……」
 デュランダルとキラの知り合いのようだが、とディアッカが囁いてきた。
「わからない……」
 だが、とイザークは言葉を重ねる。
「シン・アスカがキラのことで怒らせるとまずい相手がいる、と言っていた。その人物だと思うが?」
 確かに、それは嘘ではないな……と付け加えた。
「……あぁ……勝てる気がしない」
「俺も、だ」
 クルーゼでも互角なのではないか。そんな風に感じてしまう。
「少なくとも、バカではない。相手の技量も的確につかめるか」
 とりあえずは任せておいても大丈夫か。そう言って男は笑う。
「そう言ってくれて嬉しいよ、カナード。流石に、君でもここでは目立ちすぎるからね」
 ついでに彼女もとどめておいてくれ。デュランダルはそう言って笑う。
「……それについては確約しかねるな」
 あれは自分の管轄にない、とカナードと呼ばれた青年は言い返す。
「とりあえず、これらは引き受けよう。迂闊にオーブ軍に渡すと証拠隠滅をされそうだ」
 さらに付け加えられた言葉の意味がわからないはずがない。
「……ここは、セイランの勢力圏内なのか?」
 それでも確認をとらなければいけない、と判断をしてこう問いかけた。その瞬間、カナードは満足そうな笑みを浮かべる。
「いや。アスハだ。ただ、セイランのバカ息子が来ているからな」
 そのあたりはシンにでも聞いておけ……と彼は続ける。自分が許可を出したと言えば、彼は知っていることを話すだろう。そうも付け加える。
「と言うわけで、俺は戻る」
 言葉とともに彼は動き出す。
「……後は彼に任せておけばいいよ。私たちはキラ達の元に戻ろうか」
 心配しているだろうからね。そう言われては頷かざるを得ない。
「わかりました」
 彼が相手をどう始末するのか気になるが、ここはキラの方を優先しよう。そう判断をして、イザークはデュランダルの元へと歩み寄った。