もっとも、あくまでもこれは牽制程度の役目しかない、と最初は思っていた。
 しかし、だ。
「……マジだったのかよ……」
 フレイ・アルスターのセリフは、とディアッカがモニターを見ながら呟いている。
「学生には、見えないがな」
 どう見ても、連中の動きは訓練された者のそれだ。
「ともかく、キラ達とデュランダル博士に連絡をしておかないと、な」
 必要があれば、キラをデュランダル達の部屋へ避難をさせておきたい。イザークはそう口にした。
「そうだな。そっちに関しては任せる」
 俺は、あちらに穏便におかえり頂けるように下準備をしてくるから……とディアッカは実に楽しげに口にした。
「あくまでも、穏便に、だぞ?」
 本当はその手のことはニコルの方が得意――ただし、かなり陰険だが――なのだ。ディアッカも苦手とまでは言わないが、かなり荒っぽいことになる。
 本国であれば多少はもみ消せるだろうが、本国ではそういうわけにはいかないだろう。
 そう考えて、とりあえず念を押しておく。
「……善処するよ……」
 一瞬のためらいの後に、彼はこう言い返してきた。
 そう言うところが信用できないんだが、とイザークはため息をつく。
「せめて、学生には危害が及ばないようにしろよ」
 これだけは譲れない、とそのまま言葉をはき出す。
「わかっているって。それよりも、さっさと連絡しておかないと、時間がなくならねぇ?」
 本当に自分の性格をよく掴んでくれているよ、とイザークは心の中で呟いた。
「……わかっている」
 言葉とともに腰を上げる。
「じゃ、俺は相手をしておくか」
 こう言いながら、ディアッカはどこか楽しげにあれこれ引っ張り出し始めた。
 本当に、無用な損害が出なければいいのだが。そう思いながらも、とりあえずはデュランダルへと連絡を入れるために端末の操作を始めた。

 イザークからの報告に、デュランダルはあきれたくなった。
「わかった。多少やりすぎても構わないよ」
 相手にはそれなりに後悔してもらわないといけないからね……と付け加える。
「あのこの事は心配いらない。今、レイが呼びに行くところだよ」
 口実はいくらでもあるからね、と口元に笑みを浮かべてみせた。
『では、お任せします』
 そう告げてくるイザークの口調に、どこか悔しげな響きが含まれているのは自分の錯覚ではないだろう。
「大丈夫だよ。あの子には傷一つつけさせないからね」
 それに、と笑みを深める。もちろん、半ば演技だ。
「レイもシンも、それなりに腕が立つ。だから、こちらは心配いらないよ」
 だから、君達はそちらに専念するように。そうも付け加える。
『わかりました』
 不本意そうにイザークは言葉を返してくる。そのまま通話を終わらせる彼に、デュランダルは苦笑を禁じ得ない。
「まだまだ、若いね」
 彼も、とそう呟きながら、視線を移動させる。そうすれば、そこには長い黒髪の青年がいた。
「あれが、そうなのか?」
 信頼できるのか? と彼はさらに言葉を重ねてくる。
「ミナ様は、何とおっしゃっておいでだったのかな?」
 逆にこう聞き返す。
「キラにとって悪い相手ではない、だそうだ」
 だが、本当にそうなのかどうかは、自分の目で確認しなければ判断できない。彼はそうも付け加える。
「ラウの推薦だよ?」
 言っても無駄だろうな、と思いつつこう声をかけてみた。
「それも、わかっているがな」
 だからといって、失敗しないとは言い切れないだろう。彼がそう付け加えたのは、きっと、前例があるからだ。
「あれには、許可が出るまでキラと接触するな、と言っておいたが……どこまで信頼できるか」
 あれも、確かラウの推薦だったと思うが? と言われては苦笑を返すしかできない。
「確かに、ね」
 しかし、彼はまだ幼かったように記憶しているが? とも言い返す。それに、元々が幼なじみという関係だっただろう、とも。
「……その上、重度なキラ馬鹿だったしな……」
 そして、それを煽ってくれた人間も側にいたし……と彼はため息とともにはき出す。
「だが、今はそれは脇に置いておくべきだろうね」
 君の言葉を耳にすれば、キラが不安に思うのではないか。そう、指摘をすれば彼は「そうだな」と言葉を返してくる。
「と言っている間に、戻ってきたようだよ」
 この瞬間、彼が表情を豹変させたのだから、見事としか言いようがないだろう。
「カナード兄さん?」
 しかも、だ。部屋に入った瞬間目を丸くしている彼に向かって、満面のとは言わないまでも、優しい笑みを浮かべている。
「セイランのバカ息子が何やらやらかしたらしい、とロンド・ミナに聞いたのでな。確認しに来ただけだ」
 さらに、不自然にならない口実まで用意していたらしい。そんな彼に、デュランダルは微苦笑を浮かべるしかできなかった。