「……とりあえず、必要最低限の人員の行動に支障が出なければ構わないよ」
 微笑みながら、デュランダルはこう言ってくる。
「そうだね。IDで識別できるようなシステムなら大丈夫かな?」
 それならば、自分が除外して欲しい者達のIDに関しては伝えられるから。そうも彼は続ける。
「こちらは、それで構いませんが」
 だが、本当に大丈夫なのか。言外にそう問いかけてしまう。
「構わないよ。ここには他人にもっていかれるとまずいデーターもある、というのは周知の事実だからね」
 だからこそ、キラにもカレッジのそれからは独立したサーバーを用意して貰ったのだし、と彼は微笑む。
「……この前の、あれ、ですか」
 そういう意図だったのか……とイザークはため息をつく。
「キラも……突貫作業、だったんだろうな……」
 そうなると、あれこれプログラムを組まなければいけなかっただろうし……とディアッカも頷いてみせる。
「ですが」
 ふっとある疑問がわき上がってくる。
「キラの、そちら方面の才能を認めていらっしゃるんですよね、デュランダル博士も」
 それなのに、とイザークは少しだけ目をすがめた。
「どうして、彼に学部を移らせたのですか?」
 デュランダルであれば、それをさせなくても彼を守れたのではないか。
「確かに、キラの才能は電子の世界の方が選りすぐれているね。しかし、こちらの才能――と言うよりは知識か――それ以上なのだよ」
 彼の実のご両親が、自分たちの研究データーを全て、彼に記憶させているのだ。だから、とデュランダルは続ける。
「今のキラは……そうだね。いわば、整理されていないデーターベースと同じようなものだ。それをきちんと整理してやることも重要だろう」
 その役目を自分以外の誰かに譲りたくなかった。そう言って、彼は微笑む。
「……その話は、初耳です」
 キラがヒビキ博士夫妻の実子であること、そして、人工子宮から生まれたことは聞いていたが……とイザークは彼をにらみつける。
「それ以外に、俺たちに隠していることはありませんか?」
 ディアッカもこう問いかけていた。
「あるよ」
 もちろん、とデュランダルは笑みを深めた。
「だが、必要がない限り、君達が相手と言っても教えたくないのだよ」
 そこから、キラに伝わったら、彼がかわいそうだ。そうも付け加える。
「……あいつは、そのデーターについては?」
「知らないよ。私の教え方がいいからと言うことになっているね」
 理解の早さは、と言いきる彼は、やはりくせ者ではないだろうか。
「……ブルーコスモスは、それを知っているんですか?」
「どうだろうね。どちらにしても、あの子がそれに関わる手がかりを持っていると信じてはいるようだが」
 それが誤解でないからこそ問題なのだ……とデュランダルは笑みに苦いものを含める。
「他に、どれだけの人物がその事実を知っているのですか?」
 言外に、そちらから漏れる心配はないのか、とイザークは問いかけた。
「他に、といえば……ウズミ・ナラ・アスハとサハクの双子だけ、と聞いているな」
 プラント側で言えば、自分とレノア・ザラ、それにレイとクルーゼも知っているはずだ、と彼は続ける。
「もっとも……ザラ夫人から国防委員長に伝わっている可能性は否定できないけどね」
 だが、彼がその情報をブルーコスモスに流すことはないと信じたい。そうも付け加えた。
「……我々の親も、そこまでは知らないわけですか?」
「あぁ。もっとも、知ってもあの子の身に危険が及ぶことはないだろうけどね」
 別の意味で厄介な状況になるかもしれないが。その言葉に、イザークよりも先にディアッカが頷いて見せた。
「うちの父なら、何をしてもキラをプラントに連れてこい、と言うでしょうね」
 キラの安全だけを考えるのであれば、その方が確実なのかもしれないが……とディアッカは考え込む。
「そうなると、あいつはナチュラルの友人から切り離されるからな」
 味方をしてくれている者も多いのに、と口にしたイザークの脳裏に浮かんだのは、何故かフレイの姿だった。
「……私も、無理強いだけはしたくないのだよ」
 キラに残された数少ない肉親から引き離したくはない。そうも付け加える。
「だから、我々に出来ることは、あの子の周囲から危険を排除するだけだとも言えるが」
 しかし、今回のことが解決すれば、しばらくは大丈夫だろう。世論を操作することを得意としている人間は多いのだから、というのは彼の経験から出たものだろうか。
「……否定、出来ませんね……」
 自分の母の弁説の鋭さを思い出して頷くしか出来ない。
「君達を信頼して話した部分もある。それも考えて行動してくれると嬉しいね」
 これは、キラには悟られるな……と言うことだろう。
「わかっています」
 それは自分たちも本意ではない。だから、と言いながらイザークは立ち上がる。
「では、とりあえず準備をしてきます。後でご確認をよろしくお願いします」
 言葉とともに彼の前を辞そうと歩き出した。
「頼むよ。キラに何か言われたら、私が頼んだことにしてくれていいからね」
 微笑みと共に告げられた言葉に、イザークは頷く。そして、そのまま部屋を後にする。
 ドアが閉まった瞬間、ディアッカが思いため息をついた。
「キラも、色々と大変だな……」
「だからといって、迂闊なことは言うなよ?」
「わかっている」
 こんな会話を交わしながら、とりあえず部屋へと戻った。