話を聞いていれば、キラは既に情報管理に関してはエキスパートと言っていいらしい。 「ですので、今はデュランダル先生のところでデーターの管理をしながら遺伝子工学について学んでいる最中です」 エレカのハンドルを握りながら彼ははにかんだようにそう告げた。 「それは凄いな……」 ディアッカが素直に感心している。だが、確かにそうせざるを得ないだろう。 どう見ても、キラが自分たちよりも年上には思えない。 それなのにその経歴と言うことは、それだけ彼が努力を重ねてきた、と言うことではないのか。 「確かに。普通のコーディネイターでもそこまで出来るとは限らないぞ」 だから、素直にその気持ちを口にする。 「……僕は、勉強するしか脳がなかったので……」 苦笑と共にキラは言い返してきた。 しかし、それ以外の感情が含まれているような気がするのは、自分の錯覚ではないはずだ。 「それに、約束したんです。十四歳までは好きなことをしてもいいけれど、その後は遺伝子工学に進むって」 でも、デュランダルの所に配属されたから、今でもこっそりと情報管理の方も勉強できているが、と彼は柔らかな笑みを浮かべた。 「何でまた、そういうことに?」 情報処理だけでも十分だろう、とディアッカは口にする。 「多分……僕の実の両親が、そちらの方面でそれなりの実績を残していた人だから、だと思います」 その二人の息子である自分に彼等の研究を継いで欲しい。そういわれたのだ、とキラは口にする。 「きっと、両親もそれを望んで、僕をコーディネイトしたのだ。そういわれたら、反論できませんでしたし」 この一言に微妙に引っかかりを覚えたのは何故か。 「コーディネイターが己の子供をコーディネイトするのは当然のことだろう?」 自分たちもそうして生まれたのだから、とディアッカが口にする。その瞬間、キラが少しだけ悲しげな表情を浮かべたのがミラーに映った。 その表情を見た瞬間、イザークの心の中にある可能性が思い浮かぶ。 「失礼なことかもしれないが」 それでも確かめておかないといけないのではないか。そう思って、彼は口を開く。 「お前は、第一世代か?」 そう告げれば、ディアッカがあきれたような視線を向けてくる。 「何を言っているんだよ」 自分たちの世代で第一世代なんて、と彼は続けようとしたのではないか。 「はい。やはり、わかりますか?」 だが、それよりも早く、キラは苦笑と共に頷いてみせる。 「いや。第二世代であれば、わざわざ『コーディネイトした』と言わないだろう、と思っただけだ」 だが、オーブにも第二世代がいると聞いていた。だから『失礼かもしれないが』と前置きをしたのだ、とイザークは言い返す。 「そうですね。カレッジでも、現在、第一世代は僕だけですから……」 幼年学校の方にはまだ数名、いるが……とキラは付け加える。 「でも、コーディネイターとナチュラルの間に生まれた子供は第一世代、と言っていいのでしょうか?」 そういうカップルもオーブでは増えているから、と言われてイザークも悩む。 「確かに、それはどうなるんだろうな」 コーディネイトしているなら、第二世代、でいいのか? とディアッカも呟いている。 「どちらにしても、二つの種族が親しくしているのであれば、構わないのではないか?」 少なくとも、そういうカップルがいると言うことは、交流が積極的に行われていると言うことだろう、とイザークは口にした。 「そうですね」 納得してくれたのか。キラはとりあえず頷いてみせた。 「カレッジにはオーブ生まれの第二世代がいます。それと、最近プラントから留学してくる人も増えましたし」 だから、寮も手狭になってきているが、と彼は付け加える。 「構わない。こいつと同室で申請していたが?」 「それは大丈夫だったはずです」 確か、二人分の荷物を同じ部屋に運んだから……とキラは頷いてみせた。 「ならば、いい」 それならば、情報交換も何も楽だ。それに、いざというときに本国からの連絡も受け取りやすいだろう。 「あぁ、見えてきました」 あれが、カレッジの正門です、と彼が視線を前へと向ける。 それにつられるように二人もまたつられたように視線を向けた。 「でけぇ」 知識としては知っていたが、実際に目の当たりにすればそれだけでは足りなかったとわかる。 「遺伝子工学のような医療関係はもちろん、工学系、イザークさんが希望されている民俗学をはじめとした人文系、ディアッカさんのご希望の体育系と、一通り揃っていますから」 それに親元を離れてくる生徒も多いから、寮も全部で十カ所ほどある。 敷地内だけで生活をする者も多いから、ショッピングモールや娯楽施設も存在しているのだ。 「と言うわけで、何か、どんどん広くなったみたいです」 養父達が通っていた頃よりもさらに規模が大きくなってきているらしい。キラはそうも付け加えた。 「凄いな」 プラントが最高だと思っていたが、その認識は改めなければいけないかもしれない。 イザークは目の前の光景にそう考えていた。 |