と言っても、キラがそれを認めてくれなければ何にもならない。
「……そばにいるくらいしか、出来ないとはな……」
 この自分が、とイザークは苦笑を浮かべる。
「それだけでも、出来るだけマシ……と考えた方がいいのか?」
 こう呟いたときだ。
 いきなり、目の前に誰かが立ちふさがる。ディアッカかと思ったが、どう見ても彼ほど大きくはない。
 では、誰か。
「……ちょっと、あんた!」
 そう思って顔を上げれば、印象的な赤毛が確認できた。
「……フレイ・アルスター……」
 彼女とはいずれ接触をとらなければ、と思っていたことは事実。しかし、こんな風にあちらから声をかけられるとは思ってもいなかった。
「一応、あたしの名前は覚えていたようね」
 よかったわ、と彼女は付け加える。その口調は傲慢な響きを持っているように思えた。しかし、本当に傲慢な口調の相手を何人も知っている立場の人間からすれば、それはどこか作っている物のようにしか聞こえない。
「……あれだけ印象的なことをされれば、普通忘れないと思うが?」
 何か理由があってのことか。そう判断をして、適当にあわせることにする。
「顔はともかく、その髪の毛の色はなかなかないからな」
 そちらでも印象に残っていた。そう付け加えれば、彼女はむっとしたような表情になる。
「残念だが、俺がプラントから来たと言うことは覚えていてもらえなかったようだな」
 お前程度の容姿ならばごろごろしている、とイザークは笑った。
「……そりゃ、あんた達は自分の顔も作っているからでしょ」
 まったく……と彼女はわざとらしく視線をそらす。
「それでも、キラみたいに性格がよければいいけど……あんたってば、性格も悪いって話だし」
 逆に、もう一人の男はちゃらちゃらとあちらこちらに声をかけまくっているんだから、最低よね……と言い切る。
「それは、俺のせいじゃないと思うが?」
 あいつの八方美人ぶりまで、自分に責任をとるように言われても困る。イザークはため息とともにこう告げた。
「……でも、あいつがあちらこちらで不評を買っているのは事実よ」
 でも、キラはあんたもあいつも好きなようだから……とフレイはさらに言葉を重ねる。
「気をつける事ね。二三日中に何かあるかもしれないわよ」
 せいぜい、その綺麗な顔に傷を付けない事ね、と彼女は吐き捨てた。
「あんたの顔なんて、観賞用にしかならないんだから!」
「……別に。そう思いたければ、そう思えばいいだけのことだ」
 自分の容姿が整っているのは、自分の両親がそうなるようにしてくれただけのこと。だから、自分の功績ではない。
「俺としては、俺の外見をどうこう言う相手よりも、中身を評価して貰った方が嬉しかったからな」
 それがマイナスの感情でも、だ。そう言い返す。
「……そこまで言い切れるなら、さぞかし優秀なんでしょうね」
「珍しいな……」
 その言葉を耳にして、イザークはこう言い返した。
「……あんたらだって、さぼっていればナチュラル以下っていうのは、わかっているわよ。キラがものすごく頑張っていたのを知っているもの」
 でも、あんたがそうなのかどうかは知らない、とフレイはイザークを見下ろしてくる。
「でも、あんた達に何かあっても、キラは悲しむもの。だから、教えておいて上げるわ」
 キラに感謝するのね。
 この一言を残して、彼女はきびすを返した。
「おい!」
 そのまま、イザークが止める間もなく離れていく。
「……あいつ……」
 何をしたいのか、と呟いた。
 おそらく、自分たちに危険が迫っていると言うことを伝えたかったのだろう。しかし、それがどうしてなのか。理由がわからない。
「……いや、想像が付くな」
 キラのため。
 その一言だろう。
「好意は、受け取っておくべきだろうな」
 ディアッカにも話をしておいた方がいいか、と呟くと立ち上がる。
「後は……デュランダル博士とシン、だな」
 キラには教えない方がいいだろう。それでもシンとレイが知っていれば大丈夫ではないか。
「……問題は、その相手が本当に《学生》なのかと言うことだな」
 もっと厄介な連中である可能性もある。どちらにしても、事前にわかっていれば何とでもなる事は事実だ。
「だが、こんな事を俺に伝えて、あいつは大丈夫なのか?」
 ふっとそんなことを考えてしまう。
「……誰か、フォローできる人間がいればいいのだが」
 それも確認すればわかることだろう。そう判断をすると、寮に向かって彼は歩き出した。