しかし、内容が内容だ。多少はシンにごねられるかもしれない。そう考えていた。
「……俺も、相談したいことがあるから……」
 だが、彼はこう言って、あっさりと頷いてみせる。
「相談?」
 何だ、とイザークは思わず問いかけてしまう。
「正確には、あんたじゃなくて……そっちの人」
 しかし、シンはこう言ってディアッカへと視線を向けた。
「……俺かぁ?」
 何なんだよ、と言うようにディアッカは目を丸くしている。
「恋愛関係、得意なんだろう?」
 しかし、シンがぼそりと口にした言葉で理由がわかったらしい。
「お前もお年頃ってか」
 まぁ、そうだよな……と納得したように笑う。
「俺じゃねぇよ!」
 キラの相談に乗りたいだけだ! とシンは叫ぶように口にする。でも、自分には経験がないから、この場合経験が有り余っていそうな相手に相談をしてからの方がいいだろう。そうも彼は付け加える。
「キラ本人が相談してくるまで待てないのか?」
 その方が早いと思うが、とイザークが疑問を投げつけた。
「ダメだよ」
 しかし、即座にシンはそれを否定する。
「キラさんは、自分のことは絶対に誰にも相談しない!」
 彼はいつでも、自分のことを後回しにするから……とシンは悔しそうに口にした。
 それは、きっと、シンがキラを好きだからだろう。だから、その悔しさはわかる。しかし、どこか面白くない。
「……ともかく、キラがどうしたって?」
 イザークがそう考えているのがわかったからか。慌てたようにディアッカがシンに声をかけた。
「……自分は、人を好きになっちゃいけないからって……」
 最近、よく呟いているから……と先ほどまでの威勢の良さはどこに行ったのか。そう言いたくなる口調で口にする。
「って事は、キラさんに好きな人が出来たって事だろう?」
 それはそれでめでたいことだから、自分だって応援してやりたいのに……とシンはさらに言葉を重ねる。でも、キラのあんな呟きを聞いては、迂闊に口に出すことも出来ない。
「……確かに、な」
 それはそうだろう、とディアッカは頷いている。
「でも、キラさんのために何かしたいんだ」
 だから、とシンはさらに言葉を重ねた。
「……どうして、キラはそういうことを言うのか……何か理由のようなものを知っているのか?」
 それがわからなければ、相談を受けても答えを見つけられないだろう? とイザークは口を挟む。
 もっとも、自分がそれを知りたいだけかもしれないが。
「だよなぁ」
 ディアッカが同意の言葉を口にしたのか、自分のそんな気持ちに気が付いているからだろうか。
「ひょっとして、セイランの誰かが関係してねぇ?」
 さらに、彼はこう続けた。
「ディアッカさん?」
「……いきなり、何を?」
 彼の真意がわからないわけではない。しかし、この場でどうして……と思ってこう問いかける。
「お前がこの前のキラとのデートを邪魔されたって行っていたじゃん。だから、さ」
 何か関係しているのかなって思っただけだ。平然とした口調でそう言い返してくる。
「……確かに。だが、あの時はロンド・ミナ・サハクにも会ったから……」
 そちらの関係ではないのか? とイザークは聞き返す。
「それは……無いと思うけど」
 ミナ様は、キラの味方だし……とシンは言い切る。
「ギナ様なら邪魔するかもしれないけど、ミナ様は応援すると思う」
 そうなったら、ギナも文句は言えないはずだ。彼はさらにそう言葉を重ねた。
「……カガリ、とか言う相手もそうなのか?」
「もちろん。それどころか、キラさんの背中を蹴飛ばしてでも、キラさんの恋を成就させようとすると思う」
 だから、間違いなく《ユウナ・ロマ・セイラン》が原因なんだろう、とシンはため息をつく。
「本当にあいつは」
 何とかしてキラから遠ざけたいのに、五氏族の一人だから、それも出来ない。彼はさらに言葉を重ねた。
「……だが、あいつが来たからって、キラがそんなに悩む必要があるのか?」
 別に、ばれた訳じゃないんだろう? とディアッカが口にする。なのに、どうしていきなり……とそうも付け加えた。
「ユウナに顔を見られたとか……」
 シンはぽろっと口にする。次の瞬間、彼は気付いてはいけないものを気付いたという表情を作った。
「って事は……何?」
 キラの好きな相手って、と目を丸くしながら彼は視線をイザークへと向けてくる。
「まさか……」
 そう言葉を返しながらも、イザークはどこか納得してしまう。だから、キラはあの時、あんなセリフを口にしたのだ。
 同時に、少し哀しくなる。
「なら、言ってくれればいいものを……」
 それを乗り越える方法を二人で考えればいいだろう。それとも、そうできない理由が他にあるのか。
「ともかく……ユウナ・ロマがキラに何をしたのか……それが知りたいな」
 そうすれば、この件に関しては打開策が見つかるかもしれない。
「それは……俺が何とかしてみるよ」
 同じ結論に達したのか、シンはこう告げた。