結局、キラがおすすめだという店に三人で入ることになった。
「……お前のお薦めなら、大丈夫だろう」
 ミナはそう言って微笑む。そうすれば、先ほどの印象は一変する。
「だといいですけど」
 そう言って首をかしげるキラは可愛い。そんな彼の仕草に、思わず笑みが浮かんでしまう。
「お前が買ってきたものに外れはなかったからな」
 月にいた頃も、と彼女は言い返している。
「……月?」
 今は完全に地球軍の支配区域になっているあの場所に、キラがいたのか。そう考えて、イザークは問いかける。
「あ……うん。幼年学校時代は、月にいたよ」
 もっとも、早々にスキップしちゃったけど……とキラは付け加えた。
「灯台下暗し、と言うからな」
 意味ありげな口調でミナが告げる。
「ミナ様?」
 彼女の口調から何かを感じ取ったのか。キラが呼びかける。
「あぁ……来たようだぞ」
 しかし、ミナはさらりと話題を変えた。どうやら、彼女にとってそれは失言だったのかもしれない、とイザークは判断をする。
「どうせなら、うまいものはうまく食べたい。だから、余計なことは考えるな」
 必要であれば、必ず話してやる。
 この言葉に、キラは小さく頷いていた。
「いいこだ」
 ふわりとミナが微笑む。そのあたりの余裕はデュランダルに通じるものがある。これも、やはり経験から来るものなのか。
 しかし、デュランダルのそれとは微妙に受ける印象が違う。
「ミナ様……僕はもうじき、十七になりますけど?」
 キラが少しだけ頬をふくらませた。
「そういう表情をするとな。小さな頃のことを思い出してしまうぞ」
 カガリとセットで甘えに来たときの……と彼女は笑いを漏らす。
「ミナ様!」
 憮然とした表情でキラが彼女の名を呼ぶ。
 そのような状況であるにもかかわらず、淡々と店員はテーブルの上に注文の品を並べている。キラのお薦めだけあって、かなりおいしそうに見える。
 その間にも、ミナはキラをからかい続けていた。
「悔しければ気をつけるのだな」
 自分だから、まだ、この程度で住んでいるのだぞ、とも彼女は続ける。
「そう言えば……ギナ様は?」
 ふっと思い出したというようにキラが彼女に問いかけた。
「ギナはアメノミハシラだ。連れてきたら、お前の勉学に支障が出そうだったからな」
 苦笑と共にミナは言葉を口にする。
「それに……他の者達によからぬことが起きるかもしれん」
 あれはお前が大好きだから……と彼女はため息をつく。
「それが恋愛感情でない、と言うことだけが救いか」
 身内に関する愛情表現としては激しいような気はするが、情欲を抱いていないだけマシだろう。そんなセリフを口にする。
「……ミナ様?」
 意味がわからない、と言うようにキラは首をかしげた。
「わからないなら、そのままにしておけ」
 小さな笑いと共に彼女は今度は視線をイザークへと向けてくる。
「どうやら、よい友人が増えたようだしな」
 そのまま付け加えられた言葉に、ひょっとしたら自分は値踏みをされていたのかもしれない、と思い当たった。
 だから、キラはあの視線に気が付かなかったのか。イザークはとりあえず納得をする。
「どうやら、この方にはお前の友人といて認めて頂けたようだぞ」
 小さな笑いと共にイザークはキラに声をかけた。
「認めるも認めないも……イザークさんは友達でしょう?」
 確かに、認めて頂いた方がいいけど……とキラは首をかしげながら付け加える。
「でないと、とんでもないことになるし」
 苦笑と共に告げられた言葉に、そのような経験があるのか。そう思ってしまう。
「……カガリがいないだけ、マシだろうな……」
 そう付け加える。
「やめてください……」
 下手をしたら、カレッジから追い出される……とキラはため息とともに言葉をはき出した。
「幼年学校は、半分それで追い出されたようなものですよ。僕も彼も」
 おかげで、今は離れ離れだ……とキラは続ける。
「そうだな」
 今度は気をつけさせよう、とミナは苦笑と共に言葉を綴った。
「さて。冷たいうちに食べるか」
 そのまま、彼女はゼリーに手を伸ばす。それにつられるようにイザークとキラもまた自分が選んだケーキに手を伸ばした。