そのころ、イザークはキラと共にパソコンのパーツが売っている店へと足を踏み入れていた。 「……サーバーの増設か?」 「そんなところ……かな? デュランダル先生が、カレッジに申請すると時間がかかるから、とおっしゃって……」 シミュレーションをするのに、どうしても後一つ欲しいから……頼まれたのだ。キラはそう続ける。 「流石に、安全性を確認してからでなければ実際に実験は出来ないのか」 イザークがこう言えば、キラは微苦笑を浮かべた。 「まぁ……そういうこと」 どうして彼はそんな表情をするのだろうか。そう考えて、すぐにあることを思い出す。しかし、自分はそれを知らないことになっているのだ。 「それでも、一応、類人猿では成功しているんだけど」 これも、あちらこちらから文句が出ているらしいが……とキラはため息をつく。 「デュランダル先生もそれをご存じだから、独自でサーバーの増設をしようとおっしゃったのでしょうが……」 それを自分に丸投げしないで欲しかった。キラはそう言ってため息をつく。 「キラ?」 「プログラミングは得意でも……ハード関係は苦手なんだよね、僕」 一応、人並みには出来るようになったが、それでも今でも苦手意識だけは消えないのだ。言葉ととともに彼は苦笑を深めた。 「まぁ、そう言うこともあるか」 確かに普通に出来ていることでも苦手意識が消えないと言うことは多々ある。 「しかし、その方が作業に集中するからいいのではないか?」 自分が信用できないから、きちんと確認しながら進めていく。その方がプラスになることも多いのではないか。 「そうかな」 確かにそうかもしれない。キラはこう言って頷く。 「ともかく、早々に買い物を終わらせて、ケーキを食べに行くぞ」 そちらの方が楽しいからな。イザークは笑ってこう告げる。 「そうだね」 キラも、それに頷いてみせた。 「何を買うかはメモしてきたのだろう?」 彼の表情が明るくなったのを確認して、イザークはそっと店内へと促す。 「一応は。レイがあれこれ調べてくれたので」 設置の時は彼も手伝ってくれるだろう。キラはそう言って微笑む。 「力仕事があれば手伝うぞ」 他の連中はあまり室内に入れたくないのだろう? と問いかければキラはそうだというように頷いてみせる。 「さっきのこともあるからな。ディアッカはこき使っても構わないだろう」 その位しか使い道がない。そう言いきる彼に、キラは目を丸くした。 「イザークさんとディアッカさんはお友達なんだよね?」 それなのに、そういうことを言うのか。キラは言外にこう問いかけてくる。 「友達だからな。この程度は普通だろう」 この程度の事が言えないようでは、まだお互いに遠慮があるのではないか。もっとも、それは自分たちの考えだから、一概には言えないが。イザークはそう言葉を返す。 「俺とあいつは腐れ縁のようなものだからか。それこそ、物心が付く前から顔を合わせていた。それも関係している可能性はあるな」 そう考えれば、既に《友人》と言うカテゴリーには入らないのではないか。むしろ、親戚に近いのかもしれない。 とりあえず、キラにはそうも言っておく。 「そうなんだ……でも、そっちの方がうらやましいかな」 自分には、そんな風に思える相手はいないから……とキラは苦笑を浮かべる。 「親しくしているのはいとこ達、だし……でも、普段一緒にいないからやっぱり、どこか遠慮しちゃうし」 それ以前に、そんな風な軽口を叩くのは怖い気がするから。彼はそうも付け加える。 「昔は、もう少し、あれこれわがままを言える相手もいたんだけどね」 彼はプラントに帰ってしまったから。キラは何でもないように付け加える。 「なら、今度の長期休暇は一緒に来るか? そうしたら会えるかもしれないぞ」 キラと一緒であれば楽しいだろう。何よりも、その間は彼を拉致される心配がなくなる。 「そう言ってもらえて嬉しいんだけど……やっぱり、本土に帰らないと……」 うるさい人がいるから、とため息とともにキラは付け加えた。 「……そうなのか?」 と言うことは親戚か誰かか。 そのあたりの所を教えてもらえればありがたいのだが、と思うのは自分勝手なのだろうか。 それとも、自分で調べた方がいいのか。 シンに確認をしてみればわかるかもしれない。 これが、嫌われても構わない相手であれば遠慮はしないのだが……と小さなため息をつく。 「イザークさん?」 それを聞きつけたのか。キラが不審そうに問いかけてくる。 「あぁ……さっさと婚約者を選べと言う連中のことを思い出してしまっただけだ」 いっそのこと、キラの所に避難させて貰おうか。イザークは軽い口調でそう告げる。 「いいですよ。でも、家もちょっと騒がしくなっているかも」 キラは苦笑と共にこう言い返す。 「多少のことは我慢をしよう」 キラが側にいてくれるなら、と心の中だけで呟く。 「あぁ、そこじゃないのか?」 目的のものを見つけてイザークは声をかけた。 「あ」 そうですね、とキラは微笑む。そんな彼にイザークも微笑み返した。 |