二人の姿が出て行ったのを確認して、ディアッカは起きあがる。 「……まったく、あいつは……」 容赦ないんだから、と呟きながら床に座り直した。 それを確認したのかのようにドアが開く。イザークが戻ってきたのか、と考えて、彼は反射的に身構えた。 「相変わらずのようだな、お前達は」 しかし、そこにいたのは予想もしていない相手だった。 「……何で、お前がここにいるわけ?」 アスラン、と相手に呼びかける。 「お前達があれこれ調べろと連絡を寄越したんじゃなかったのか?」 それに対し、アスランはこう言い返してくる。 「ついでに、お前達のフォローをしてこいと言われただけだ」 もっとも、と彼は小さなため息をつく。 「俺がキラの前に姿を見せられない、と言うことは隊長達も知っているはずなんだがな」 本当に何を考えているのか。そう言葉を重ねる。 「知り合いだったわけ?」 アスランの言葉に顔をしかめながらディアッカは問いかけた。 「……幼なじみだ」 お前とイザークのようなものだ、と彼は続ける。 「あららら……それなのに、顔を見せられないわけね」 嫌われるようなことでもしたのか? と軽い口調で続けたのは、自分がイザークがキラに対して抱いている気持ちに気付いているからだ。親友としては、彼が玉砕する前に邪魔されては困るとも考えている。 「違う……俺が、あちらにマークされているだけだ」 うるさいのに目をつけられているから、とアスランはため息をついてみせる。 「俺としては、キラを守ることはやぶさかではない。だが、俺が姿を見せることで、バカを刺激しかねないからな」 その結果、キラに危険が及んでは本末転倒だろう。この言葉とともに、アスランはまたため息をついた。 「その点、お前らなら、あちらにまだ素性がばれていないからな」 思い切り不本意だが、実力に関してだけは自分も認めている。とりあえず、キラを守らせることに異存はない。彼はそうも付け加えた。 「バカさえいなきゃ、俺が自分で守るのに」 昔みたいに、とアスランは呟く。 「……まぁ、それに関しては妥協するしかないというのはわかっているが」 表だって動けないだけだからな、と口にしながら彼はポケットからデーターカードを差し出した。 「とりあえず、現状でわかっている情報はこの程度だ」 後で、イザークと一緒に確認しろ。そう付け加える。 「……それと、俺のことは……」 「キラには内緒にしておけばいいんだな?」 「あぁ、頼む」 全てのけりが付いてからでなければ顔を会わせるわけにはいかないんだ……とアスランは肩を落とした。 「馬鹿な約束をしたよな、我ながら」 でなければ、自分がここにいてキラを守っていたのに……と彼は続ける。 「まぁ、いい。今更言ってもしかたがないことだ」 すぐに復活をした彼を『流石だ』と言うべきなのかどうか、ディアッカは悩む。だが、自分たちの知らない彼の姿にどこか楽しいと感じている事も事実だ。 「で? このまま、本国に戻るわけ?」 とりあえず、その感情を隠してこう問いかける。 「いや……こちらはこちらで調べたいことがある。それが終わるまでは滞在する予定だ」 カレッジの別の学科に留学している、と言葉を返してきた。 「とりあえず、俺たちの今の連絡先だ」 何か緊急の時には連絡を寄越せ、とそう言いながら、一枚のメモを差し出してくる。 「……俺たちって事は、残りはニコルか?」 「いや。ラスティだ。ニコルは……ラクスと一緒にオーブ本土に行っている」 あちらで、あれこれ根回しをしているはずだ、とアスランは告げた。 「……予想以上に大事になってねぇ?」 「それだけ、今回のことはプラントにとっては切実だ、と言うことだ」 婚姻統制の緩和と次世代の増加。 どちらも、プラントの人間であれば喉から手が出るほど欲しいものではないか。 「確かに、な」 人工子宮の完成はプラントにとって悲願と言える。だからこそ、これだけ大がかりな事になっているのだろう。 「ともかく、キラのことを頼む。イザークの存在は今ひとつ気に入らないが……キラが笑っているから妥協しておく」 でなければ、手を回してでも他の誰かと返させた。この言葉はちょっと引っかかる。 「……お前、それって……」 彼もキラが好きなのだろうか。 「大切な兄弟、みたいな存在だからな」 他にも理由があるし、と彼はため息をつく。 「言っておくが、あいつを泣かせたら俺だけじゃなくラクスからも恨まれるからな」 その事実だけは覚えておけ、とアスランは口にする。そのまま、彼はきびすを返した。 「……緊急でないときには、デュランダル博士を介して連絡をしてくれ。くれぐれも、キラにばれるなよ?」 こう言い残すと、彼は出て行く。 「……マジで、何があったんだろうな」 ここまでキラに自分の存在を知られたくないというのには。本気でそう思ってしまう。 「……イザークに何と言って説明をするか……」 何か、思い切り貧乏くじを引いているような気がするのは錯覚か。ため息とともにこう言うしかないディアッカだった。 |