そのカレッジは、オーブ所有のプラントの三分の一を占めていた。もう三分の一はモルゲンレーテの施設で残りは居住施設と宇宙港だ、と考えれば、オーブがどれだけ力を入れているのかわかるというものだろう。
 だが、逆に言えば生徒の数も多いと言うことだ。
 その中に、地球軍の関係者がどれだけいるのか。それを探るのは難しいのではないか。
「……迎えが来ている、と言っていたな」
 もちろん、クルーゼ達もわかっているはず。それなのに、自分たちが保護しなければならない対象すら教えてもらえなかった。
 いや、それは正確に言えば間違っている。
『行けばわかる』
 この一言だけで追い出された、と言うのが正しいのだ。
「でも、俺たちの顔を知っているのか?」
 相手の方が、とディアッカが呟く。
「デュランダル博士がこちらにいると、そういっていたな」
 そういえば、と今更ながらに思い出す。
「なら、博士かその関係者が来るのか?」
 その可能性が一番高いだろう。しかし、あのクルーゼがそんな風にわかりやすいことをしてくれるだろうか。そんな不安もある。
「とりあえず、待っているしかないだろうな」
 下手に動いて、相手とすれ違ってしまえば意味はない。
 しかし、本当に迎えが来るのか……とイザークはすこし目をすがめてしまう。
「まぁ、いいけどな……でも、鬱陶しいか」
 この視線が、とディアッカは周囲を見回す。どうやら、さりげなく牽制したのか。視線が半分になった。
「……直接声をかけてくれば、まだ考えてやるのに」
 そういうあたり、彼も自分の外見が女性陣――特にナチュラルの――に与える影響を理解しているのかもしれない。
「そうだな」
 こう言って頷いたときだ。
「あの……」
 女性にしてはすこし低めの声がかけられる。
「何? デートの申し込みなら、とりあえずは受付しておくけど?」
 ディアッカがこう言い返した。
 先ほどの言葉を聞いていたからか。だとするならば、まだましなのかもしれない。そう思いながら、イザークもまた声の主へと視線を向ける。
「……じゃなくて……」
 しかし、そこにいたのは少女ではなかった。
 その容姿から判断をして、間違いなく同胞コーディネイターだろう。美人と言うよりは可愛いと言いたくなる容姿の少年が困惑の表情を浮かべている。その表情のせいか、どこか『守りたい』と思わせた。
「イザーク・ジュールさんとディアッカ・エルスマンさんですよね?」
 少年は、はっきりと二人の名を口にする。
 反射的に相手に対し警戒をしてしまったのは、自分たちの名前がここでは知られていないはずだから、だ。
 それを知っている人間は何者なのか。
「……間違っていましたか? ギルさんからは『金銀コンビで、一番目立っている相手を探せば間違いないよ』と言われていたんですが……」
 しかし、さらに付け加えられた言葉に、すこしだけ警戒をゆるめる。
「ギルさん、というのは?」
 とりあえず、自分たちのことを教えたのが誰か。それを確認しなければいけない。そう思って、問いかける。
「ギルバート・デュランダルさんです。家の学校の臨時講師で……寮の責任者もしてくださっています」
 今日はちょっと時間が取れないようなので、自分が代わりに迎えに来たのだ。少年はそうも付け加えた。
 さすがはクルーゼの友人。類友だったのか。
「……名前……」
 しかし、それを彼に告げるわけにはいかない。
 だが、このまま何も言わないのも間が悪い。しかし、何と言えばいいのかわからずに、こんな単語だけを口にしてしまう。
「……え?」
 しかし、それだけでは意味がわからなのだろう。彼は首をかしげてみせる。その様子がまた可愛らしいと思えてならない。
「お前の名前は、何なんだ?」
 そういえば、エザリアも可愛いものが好きだったな。そう思いながら言葉を口にする。
「あぁ、すみません。自己紹介がまだでしたね」
 ふわり、と少年は微笑む。その顔から何故か目が離せない。
「キラ、です。キラ・ヤマト」
 こう言いながら彼はすっと手を差し出してくる。
 反射的に、イザークはその手を握りしめていた。
「よろしくお願いしますね」
「あぁ」
 それに、イザークは頷いてみせる。
「……ところで、失礼ですが……」
 ふっと思い出したようにキラが口を開く。
「お二人のどちらがイザークさんで、どちらがディアッカさんなのでしょうか」
 この問いかけは予想していなかった。だから、思わず目を丸くしてしまう。
「……さすがはデュランダル博士……」
 次の瞬間、ディアッカが爆笑をしてくれる。
「ディアッカ!」
 うるさい! と条件反射のようにイザークは彼を殴り倒してしまった。

 その後、思い切り後悔してしまったのは言うまでもないことであろう。