連絡をつけて来るというシンと、その場で別れた。
「……とりあえず、母上に連絡を取るか」
 ディアッカの父でもいいだろうが、とイザークは付け加える。
「フレイ・アルスターの父親についての調査を早めて貰うつもりか?」
 即座にディアッカは確認の言葉を口にした。
「あぁ。もし、お前の考えているとおりなら……あいつを味方に引き込んだ方がいい」
 内密に連絡を取り合えれば、キラを守ることが楽になる。イザークはそうも口にした。
「本当は……キラだけを優先すべきではないのだろうが、な」
 拉致される可能性があるのは他のコーディネイター達も同様なのだ。それを忘れているつもりはない。
「だが、今、一番確率が高いのもキラだろう?」
 直接的な行動に出られている、とディアッカが言い返してくる。
「それに……きっと、プラント側もそう考えているんじゃね?」
 あるいは、デュランダルの判断か。
「俺たちを、わざわざキラの側に呼び寄せたんだからな」
 だから、自分たちがキラを優先したとしてもおかしくはないはずだ。彼はそうも付け加える。
「……それに、さ。他の連中の話だと、今のところちょっかいをかけられている人間はキラ以外にいないそうだぜ」
 逆に言えば、連中はそれだけ《キラ》を欲しがっていると言うべきかもしれない。
「あるいは……キラさえ手に入れてしまえば、全ては終わるとでも思っているのかもしれねぇな」
 その先に待っているのは、戦争への道だ。
「……それだけは、何を捨てても阻止しなければいけない」
 イザークは歯の隙間から絞り出すように言葉を綴る。
「俺も同じ気持ちだって」
 それとキラを守ることがイコールになっているから、余計に頑張ろうと思うんだよな、とディアッカは笑う。
「確かに」
 もし、守らなければいけない対象が《キラ》でなかったとしたならば、自分はどこまで本気になっただろうか。
 もちろん、任務である以上、手を抜くことは考えられない。
 だが、キラのように本心からは動けなかっただろう。あくまでも、義務の一環として守ろうとしていただけではないか。
「そうなると……デュランダル博士の気遣いに感謝しないとな」
 キラが自分たちを迎えに来てくれなかったら、ここまで彼に好意を抱かなかっただろう。
「……あの人の掌の上でいいように転がされているような気もしなくはないが、な」
 まぁ、それもキラと親しくなれたことでおつりが来るだろうが、とディアッカは呟く。
「そうだな」
 ともかく、とイザークはへやへと足を向ける。
「母上に連絡を取らないと。本当は直接ザフト本部に申し入れたいところだが……」
 それでは、自分たちのことが相手に知られてしまうのではないか。カレッジ内部にも地球軍の手は及んでいるものと考えた方がいいだろう。
「……今回のことも、な」
 内部に犯人が言えれば、十分に可能か。イザークの隣へと追いついてきながら、ディアッカも頷いてみせる。
「まぁ、キラ達がすぐ側に引っ越してきてくれただけでも楽だな」
 自分たちの部屋からでも警戒がしやすくなった。それもまた、デュランダルには予定通りの行動なのだろうが……とイザークは苦笑を浮かべた。

 内部からセキュリティが切られていた。
 その事実をデュランダルから教えられたのは、翌朝のことだ。
「やはり、内部にもブルーコスモスか地球軍の手は及んでいる、と考えた方がいいだろうね」
 不本意だが、と彼はため息をつく。
「……キラ達に、その話は?」
 イザークが確認のために問いかける。
「不本意だがね」
 セキュリティが破られたことだけは伝えてある、と即座に言葉を返された。
「あの子の存在だけではなく、ここのデーターも盗まれたり破壊されたりすれば困るなどと言ったものではないからね。寮のセキュリティの他に個別に構築してくれるよう、頼んだのだよ」
 もちろん、キラ達の使っている部屋も含めて……と彼は笑う。
「あそこにも、データー用のサーバーがあるからね」
 キラとしても「必要はない」とは言えないようだったよ、と付け加える彼に、間違いなくそれは故意なのではないか、と考える。
「そういう目的で使っていた部屋だったからこそ、あの子達を引っ越しさせても誰からも文句は言われなかった、と言うのはあるよ」
 最悪、研究室の実験器具その他が破壊されても、こちらのデーターとキラさえいてくれれば、何とでもなる。デュランダルはこうも言い切った。
「わかりました。最初からキラを連中に渡すつもりはありません」
 こうなれば、自分たちもこっそりと監視システムを構築しておいた方がいいだろう。イザークは心の中でそう呟く。
「頼むよ。あの子は……幸せにならなければならない子だからね」
 その言葉はどこから来たものなのか。
「デュランダル博士?」
「あぁ、本国からデーターが届いているよ」
 それを確認したかったのだが、彼はさりげなく受け流してくれる。
 おそらく、それを知られたくないのか。だが、それはどうしてなのだろう。
「お預かりします」
 しかし、それよりも優先すべき事がある。自分にそう言い聞かせて、イザークは言葉を口にした。