キラ達の引っ越しは昼前には終わった。もっとも、彼等はこれから部屋の整理が待っているが。 「……フレイ・アルスターの行動、引っかからないか?」 キラ達の耳に入らないだろう。そう思われる場所まで来たところで、不意にディアッカがこう言ってきた。 「ディアッカさん?」 いきなり何を、とレイが聞き返している。 「今回のことだって、フレイ・アルスターがキラを誘ったからあいつは無事だったようなものだろう?」 もちろん、もう一人の女性の存在もあるのかもしれない。しかし、フレイが反対をすればキラを誘わなかったのではないか。 「この前のことだってそうだ」 改めて考えてみれば、おかしいことだらけだ……とディアッカはさらに言葉を重ねる。 「あいつらが出かけたのは朝一だという話だったからな。キラを捕まえようとするなら、午前中の方がよかったはずだ」 その方が邪魔が入らなかったはずだ、と言われれば、納得しないわけにはいかない。 「確かに……あの時の様子から考えれば、俺がいなければキラは押し切られていただろうな」 キラは優しいから、困っている人間がいれば手を差しのばして当然だと考えている。友人というポジションにあれば、なおさらのことだ。 「……だからって、あいつがキラさんのことを考えているなんて、思えない……」 思いたくない、というのが本音ではないのか。そう思うが、あえて口にはしない。 「どちらにしても、フレイの意味ありげな行動で、キラが結果的に無事だというのは事実か」 故意なのか偶然なのかはわからないが……とイザークは口にする。 「それは……調べるしかないだろうな」 ため息とともにディアッカがこう告げた。 「そうだが……」 そのためには表沙汰に出来ない手段を使わなければいけない。しかし、それをシンの前で告げるわけにはいかないのではないか。言外にイザークはそう告げた。 「……本土で何が起きているのか、調べてもらうよ……」 だが、予想外のセリフがシンの口から出る。 「不本意だけど、あの人なら調べてくれる」 キラのことだから、確実に……と彼は嫌そうな表情で付け加えた。 「……誰なんだ、それは」 そこまで嫌そうな表情をする相手に興味があるのだろう。ディアッカがこう問いかけている。 「……キラさんに関することで怒らせると、一番恐い人……」 それに対するシンの答えはこれだ。 「これ以上ばらすと、俺がボコられる」 さらに付け加えられた言葉に、イザークは思わずディアッカと顔を見合わせてしまった。 「それは……」 大変だな、とディアッカが言い返している。 そんな彼等の様子を長めながら、イザークは別のことを考えていた。 自分の存在をあまり広めたくない相手。それは、表に出られないような仕事――傭兵とか、だ――をしている人間ではないだろうか。 だが、逆に言えばそれだからこそその人物が持ってきた情報は信頼できる、と思う。 「いったい、キラとどこで知り合ったのだろうな」 無条件でそれを引き受けてもらえるのだろう、とイザークはシンに問いかける。 「……昔からの顔見知りだ、と聞いた」 詳しいことは、本人もキラも教えてくれない。彼はそうも付け加えた。 「ちょっと悔しいけど……でも、言いたくないなら無理に聞かなくてもいいかなって……」 この気持ちは理解できる。 「そうだな。いずれは、教えてもらえるかもしれない。その日を待つのがいいだろう」 慰めるつもりではなく、自分に言い聞かせようとイザークはこういった。 「だといいよな」 ともかく、事情が事情だから、話をしてみる……とシンは締めくくる。 「そちらに関しては任せる」 流石に、オーブ国内のことは手出しできない……とイザークは苦笑を浮かべた。 「出されてたまるか!」 流石に、国際問題になりかねないぞ……とシンは口にする。 「わかっている。だから、任せると言っているだろう?」 もっとも、別方面からのアプローチはかけさせて貰おう。そう心の中で付け加える。 「ともかく、キラにばれないように気をつけないとな」 ばれたら、嫌がられるだろうな……とディアッカはため息とともに口にした。 「あぁ。それはそうだろうな」 キラの性格であれば、十分に会え言える話だ……とイザークも頷く。 「でも、どうしてああなんだろうな、キラは」 ディアッカがぽつりとそう呟いた。 「……どうしてだろうな……」 きっと、何か原因があったのだろう。しかし、それを自分は知らない。 「まぁ、いい。それもいずれ話してもらえるよう、努力するだけだ」 他人から聞いても意味はないだろうから。この言葉に、シンが少しだけ驚いたような表情を作る。しかし、それはすぐに笑みに変わった。 「あんた、本当にキラさんが好きなんだ」 この言葉に、イザークは意味がわからないというように彼の瞳を見つめる。 「他の連中は、さ。その理由を知っていたら教えろって俺に言うんだよな。でも、あんたはキラさんが話してくれるまで待つって言うし」 そう言うところは認めてもいいかもしれない。そういう彼に、イザークだけではなくディアッカも苦笑を浮かべるしか出来なかった。 |