デュランダルの元へ行けば、そこにはレイだけではなくシンも既に来ていた。
「災難だったね」
 いつもの笑みと共にデュランダルが優しい声音で言葉を口にする。
「……ひょっとして、寝ていらっしゃらないんですか?」
 そんな彼の瞳が、少しだけ赤いことに気付いたのだろう。キラがこう問いかけている。
「気にしなくていいよ」
 君達の安全の方が優先だからね、とデュランダルは微笑み返してきた。その余裕とも言える言動は、やはり積み重ねてきた経験から来るものなのだろうか。
 どちらにしても、その笑みだけで周囲を納得させられるのは流石だ、と心の中で付け加えた。
「それにしても、君が部屋にいるときに押し入られなくてよかったね」
 そうなっていたら、どうなっていたことか……とデュランダルは付け加える。
「……いつもなら、帰ってきている時間ですよね?」
 何かに気が付いた、と言うようにシンが口を開く。
「と言うか……別れた時間を考えれば、戻っていておかしくはないんだが」
 さらにレイも頷いている。
「キラさん?」
 そのまま、二人とも視線を彼へと向けてきた。
「……ミリィとフレイにあって……そのまま、お茶をしに行っただけだよ」
 新しいお店が出来たって聞いたから、キラは視線をそらしながら言葉を口にしている。
「また、あの女!」
 よほどシンはフレイのことが嫌いなのか。吐き捨てるようにこういった。
「そういうな、シン」
 即座にレイが彼をたしなめている。
「今回は、そのおかげでキラさんが危険な目に遭わずにすんだんだぞ」
 そう考えれば、今回だけは感謝してもいいのではないか。そうも付け加えている。
「……それはわかっているけど、さ」
 でも、普段の言動を見ていると……とシンはさらに言葉を返していた。
「シン……」
 今は、フレイのことは関係ないでしょう……とキラがたしなめるように言葉を投げかけている。
「……すみません」
 シンは一瞬表情を強ばらせた。それでも、すぐに自分の非を認めるかのような言葉を口にする。
「シンが僕のことを心配してくれているのはわかっているけどね。だからといって、他の人を悪く言わないで」
 何よりも、とキラは苦笑を浮かべた。
「ミリィとフレイは、ケーキの食べ歩きに付き合ってくれる数少ない友人なんだよ?」
 シンが付き合ってくれないんだから、と言うキラに、シンは複雑な表情を作る。
「だから、一日に一カ所なら付き合いますって……」
 三カ所も四カ所も食べ歩くのは、自分には無理だ……と彼はそのまま言い返してきた。
「……一カ所だけだと、味の比較が出来ないんだもん」
 それじゃ意味がないのだ、とキラは言い切る。
「まぁ、それについては後でじっくりと話し合うことだね」
 小さな笑いと共にデュランダルが二人の会話にストップをかけた。
「セキュリティがどうなっていたのか。私の方で確認はするが……」
 後でこっそりとキラの力を借りなければならないかもしれない。彼はそう告げる。もちろん、キラに異存はないのだろう。小さく頷き返しているのが見えた。
「それで、君達の部屋なのだが……整理をするにしてもしないにしても、あの場所にいるのは危険だろうね」
 とりあえず、当面必要な荷物を持って空いている部屋に移動して貰った方がいいかもしれない。デュランダルのその言葉にはイザークも同意だ。
「ですが……」
「構わないと思うよ。寮内のことは私の権限で多少の無理は利く」
 それに、あの状況であれば、そうしたとしても誰からも文句は言われないはずだ。そういって、デュランダルは微笑む。
「そうしておけ、キラ」
 イザークもデュランダルの言葉を指示しておく。
「あの部屋の様子であれば、二日や三日で元通りには片づけられないぞ」
 ベッドも使い物にならないだろうし、とそうも付け加える。
「そう、でしょうか……」
 キラは本気であの部屋で寝るつもりだったのか。その表情からそう判断をする。
「無理はするなって。ゼミの方も休めないんだろう?」
 ディアッカもまた口を開いた。その瞬間、デュランダルが苦笑を浮かべる。と言うことは否定するつもりはないと言うことか。
「そういうことだからね。とりあえず、あちらは封鎖して……君達は引っ越ししてくれるといいね」
 部屋は、隣が空いているから。その言葉に、レイが苦笑を浮かべる。
「ギルの都合がいいからでしょう?」
 その部屋割りは、と彼は告げた。
「そういうわけではないけどね。万が一のことを考えれば、そちらの方が安全かもしれない。そう思っただけよ」
 デュランダルのその言葉の裏に隠されている意味を、キラとシンも的確に受け止めたのだろう。表情を強ばらせている。
「と言うわけで、今日中にとりあえずの引っ越しを済ませてくれたまえ。レイも、手伝いに行ってくれるかな?」
 自分は、その他の事務処理をしてくるから。この言葉に、レイは首を縦に振っている。
「俺たちも手伝うからな。引っ越しだけは終わるだろう」
 イザークもそう告げた。
「だな。人出は多い方がいいか」
 ディアッカもそう言って笑う。
「と言うことで、行きましょうか」
 シンがキラの手を取ると、引きずるようにして歩き出した。