すぐに通報を入れたにもかかわらず、犯人には捕まえることは出来なかった。
「……これは……」
 残されたのは、あらされた部屋だけだ。
「流石に、ここでねるのは無理じゃねぇ?」
 話を聞いて駆けつけてきたディアッカも、目の前の光景にこれ以上の言葉を口にすることは出来ないらしい。
「……今晩は、俺たちの部屋で寝ろ」
 シンが帰ってこないならば、そちらの方が安心だ。イザークはキラに向かってそう告げる。
「でも、いいの?」
 流石に、迷惑ではないのか。キラはこう問いかけてきた。
「大丈夫だ。いざとなれば、ディアッカを床で寝かせる」
 それに、イザークは即座に言葉を返す。
「……イザーク、お前なぁ……」
「そういうわけには……」
 即座に、二人がそれぞれの言葉を口にする。
「気に入らないなら、ソファーか?」
 ディアッカに視線を向けながら、イザークはさらに言葉を重ねた。
「客人を床に寝かせるわけにはいかないだろうが」
 こう告げれば、彼はしかたがないというように肩をすくめてみせる。どうやら、最初からそのつもりだったようだ。
「でも、それでは申し訳ないです」
 自分がソファーで寝るから、とキラは言ってきた。
「気にするな。それとも、俺と一緒に寝るか?」
 キラは細いから、何とかねられるだろう。もっとも、寝相が悪いなら諦めて貰った方がいいが……と笑いながら問いかける。
「寝相は、悪くないと思うけど……」
 でも、やはり自分がソファーで寝る……とキラは続けた。でないと申し訳ないから、とも。
「気にするな。ディアッカならごめんだが、お前とならば気にならない」
 一緒に寝ても、と言外に付け加える。
「それに、明日のことを考えれば、ゆっくり眠っておいた方が身のためだと思うぞ」
 あの部屋を片づけなければいけないだろう。その他にもやらなければいけないことはある。せめて、ゆっくりと眠っておかないと後が大変になるぞ、とも付け加えた。
「それも、一応わかっているけど……そのせいで、イザークさん達に迷惑をかかるのもいやだから」
 キラはこう言って自分がソファーで寝ると主張を続ける。
 今までは気付かなかったが、予想以上にキラは頑固らしい。だが、そうでなければ出来なかったことも多かったのだろう。
 しかし、こう言うときぐらいは甘えてくれてもいいのではないか。そんなことも考えてしまう。
「お前が倒れるのを見るのは、俺がいやなんだがな」
 だから、遠慮をされる方が困る。
「……イザークさんが、困るのですか?」
 どうして、と言外に付け加えながらキラが首をかしげた。
「それは……」
 何と言えばいいのだろうか。一瞬悩む。
「俺がお前を友達だと思っているからだ」
 ついでに、ディアッカが多少のことでは壊れないくらい丈夫だ、とわかっているからだ。そうも付け加える。
「一応、僕もコーディネイターですよ?」
 だから、それなりに丈夫だ……とキラは言い返してきた。
「それもわかっているが……俺としては、ディアッカを追い出したい」
 ちょっとしたわけがあってな……と苦笑と共に視線をディアッカへと向ける。
 伊達や酔狂でそれなりの時間、付き合っているわけじゃない。
「……まだ怒っていたのかよ。ちゃんと謝っただろう?」
 即座に肩をすくめるとこう言ってくる。要するに、自分が邪険にされているのは、イザークを怒らせたからだ……とディアッカは態度で示した。
「ダメだよ、ケンカは」
 小さなため息とともにキラはこういう。
「そういうがな。せっかくのダージリンだったんだぞ」
 あれは一年近く前から予約をしてようやく入手したのに……とイザークはわざとらしいため息をついてみせる。
「しかも、わざわざ別の場所にしまっておいたのに、引っ張り出して中身を台無しにしてくれたからな」
 そう簡単に許せるか、とイザークは口にした。
「そうかもしれないけど……」
 言葉とともにキラはため息をつく。
「まぁ、俺が妥協すればいいだけだしな。朝も早いし」
 そう考えれば、キラにベッドを譲って自分がソファーで寝る方が無難か……とディアッカは笑った。
「それとも、俺と一緒に寝るか?」
 キラなら大歓迎だぞ、と彼は続ける。
「ぐえっ!」
 しかし、何故か、次の瞬間、ディアッカは床に懐いていた。
 それはどうしてなのか。
 こう考えたところで、自分が彼を殴り倒したのだと理解した。
「……イザークさん……」
 キラが複雑な表情を浮かべている。
「すまん。こいつのその手の冗談は冗談にならないことがあるからな」
 ほとんど条件反射だ、と訳のわからない理屈を口にしてしまう。それだけ、自分でも混乱していると言うことか。
 それはどうしてなのか。考えてもわからない。
 ただ、それを悟らせない自分を思い切りほめたくなったのは事実だ。