しかし、これは何か恣意的なものを感じる。
 シンと別れてからも、イザークはその考えを振り捨てることを捨てられない。それは自分だけなのだろうか。
「……ディアッカ……」
「わかってるって」
 そう思って、腐れ縁の彼に声をかければ、即座に言葉が返された。
「こっそりと本国に連絡を取って、調べて貰った方がいいだろうな」
 フレイ・アルスターの父親について。
 重ねられた言葉から、彼もまた同じ事を感じていたのかもしれない。
「大西洋連合の事務次官だって言うなら、基本的な資料は既にあるだろうし……監視もされている可能性が高いか」
 ならば、何に関わっているのかもわかるかもしれないな……とディアッカさらに言葉を重ねている。
「俺としては……あの《シン》って奴もちょっと気になるけどな」
 悪い意味じゃなくて、と言う理由はわかった。
「……オーブ軍の関係者だと思うか?」
「本人は軍人じゃないだろうけどな」
 おそらく、キラに何かあったら通報する役目を担っているのではないか。もっとも、それを本人に確認できないのは辛いが。
「まぁ、お前と違って俺は体育系と言うことで来ているからな。あいつに、護衛用の体術の一つでも教えておくか」
 そうすれば、こちらも楽だ。そう言って笑う。
「……それに関しては任せる」
 その間、キラの側にいる人間が必要だろうから、とイザークは言葉を返す。
「了解」
 体格を考えれば、イザークの方がキラの側にいても違和感がないだろうし……とディアッカは言い返してきた。
「問題は、だ」
 だが、すぐに彼は真顔になる。
「どうして、キラが狙われているか、だ」
 キラ個人が持っている才能が優れているのはこの数日で十分に理解できた。彼の性格が好ましい――いや、それ以上だも思える――ものだと言うことも、である。
 しかし、だからといってここまで執拗に彼を狙うだろうか。
「だよな。人工子宮から生まれた、と言っても、連中には意味がないことだし……」
 ブルーコスモスであれば別の理由からキラを狙うかもしれない。だが、それは拉致というようなまだ穏便と言える方法ではないはず。
「だからといって、遺伝子工学の方では、キラはまだまだ未熟なんだろう?」
 優秀でデュランダルのお気に入りの存在かもしれないが、それでもまだまだ、自分だけで実験できるような立場ではない、と聞いている。
「なら、もう一つの方だろうな」
 情報管理の才能。
 同時にプログラマーとしての才能はオーブでもトップレベルにあるらしい。順当に考えれば、そちらの方が連中の狙いだと言うことか、とイザークは心の中で呟く。
「……キラが、あちらの学部にいたとき、ゼミで何を研究していたのか聞き出しておくべきだろうな」
 うまく聞き出せるかどうかはわからないが、とそうも付け加える。
「頑張れ」
 そちらは任せた、とディアッカは言葉を投げつけてきた。
「ディアッカ?」
 何故、自分に押しつけるのか。そう思いながら、イザークは彼をにらみつける。
「お前の方がキラと仲がいいからな」
 一緒にいる時間が長いぞ、とそうも付け加えられた。
「そうだったか?」
 ディアッカも同じようにキラの側にいたとばかり思っていたが……とイザークは口にする。
「お前と一緒の時には、な」
 そうでない時間も、自分にはある……と彼は苦笑と共に付け加えた。そして、自分と離れているときでもイザークはキラと一緒にいるだろう、と告げる。
「だから、俺よりもお前の方がキラとは仲良しさんな訳」
 個人的には、ちょっと残念だが……と付け加える彼に、イザークの目はさらに細められた。
「何が言いたい?」
「キラって癒し系だよな、って言うだけ」
 側にいるとほっと出来るんだよな、とディアッカはへらりと笑う。
「それは……否定しないが……」
「だろう? つまり、そういうこと」
 腹のさぐり合いをしなくてもすむ相手。
 そういう存在は珍しい。
 だから、親しくなりたい。
「任務でなければ、もっと強引にアプローチをかけたんだけどな」
 いや、残念。そう付け加える彼に、何故か怒りがわいてくる。
「ディアッカ! 貴様、何を言っている!!」
「……だから、してないだろう?」
 嫌われるのは困るからな、とディアッカは苦笑を浮かべながら見つめてきた。
「でも、何でお前が怒るわけ?」
 しかし、この切り返しに、イザークは焦る。
「……それは……」
 自分でも、どうして起こったのかわからないのだ。
「なるほど。無自覚なわけね」
 イザークは経験不足だからしかたがないのか、と彼は笑みを深める。
「ディアッカ!」
 何を知っているというのか。それを教えろ、と視線だけで問いかけた。
「自分で気付かないと意味がないだろう?」
 しかし、ディアッカはそれ以上何も口にしようとはしない。そのことがまた、腹立たしかった。