その話は、まさしく青天の霹靂だったと言っていい。
 それは自分だけではない。隣にいるディアッカも同じだったようだ。
「……もう一度、話して頂けますか?」
 しかし、悩んでいても意味はない。そう判断をしたのか、彼は目の前の面々――はっきり言って、プラントの中軸をなしていると言ってもいいメンバーだ――に問いかけている。
「オーブのカレッジに留学をしなさい」
 きっぱりとそういいきったのは、己の母だ。
「……母上?」
 そんな彼女に、イザークは必死に怒りを押し殺しながら呼びかける。
「どうして俺たちが、今更、オーブなどのカレッジに通わなければいけないのですか!」
 既に、アカデミーを卒業し軍務に付いている人間がだ……と言外に付け加えた。
「どうやら、地球軍がよからぬことを企んでくれているのだよ」
 今度口を開いたのは、自分たちの上司だった。
「よからぬこと、ですか?」
「そうだ。あのカレッジで学んでいる者の中には、我々と同レベルの人材もいる――人種も含めて、ね――その人材が、卒業以前に行方不明になる、という事件が起きているそうなのだよ」
 その言葉の裏に隠されている意味に気づけないほど、自分たちはバカではない。
 だが、とイザークは心の中で呟く。
「それでしたら、オーブ国内で解決すべきことではありませんか?」
 自分たちが出て行くことではないだろう。そうも付け加える。
「イザーク。あなた達は誤解をしています」
 あきれたようにエザリアがため息をついてみせる。
「オーブのそのカレッジは、一部の分野に関してはプラントよりもレベルが高いのです。それ故に、プラントから留学をしている者もいます」
 その者達にも同じように危険が迫っていると考えても、同じ事が言えるのか。彼女はさらに問いかけてきた。
「……母上……」
「その事情もあってね。現在、プラントとオーブの共同研究もそのカレッジで行われている」
 それさえ成功すれば、婚姻統制の緩和も可能なのだ。
 この言葉に、イザークだけではなくディアッカも目を丸くする。
「そんなこと、可能なわけ?」
「……俺に聞くな」
 自分に、そちら方面での知識はないに等しい。イザークはそう言い返す。
「向こうには、デュランダルもいます。その彼がアスハとサハクからの協力要請を伝えてきました」
 もっとも、あちらにも色々と事情があって公には出来ないが、正式なものだ。エザリアはそう付け加える。
「君達であれば可能だ、と思ったのだがね。無理だというのであれば、他の者に命じることにしよう」
 わざとらしい口調でクルーゼがこう呟く。
「隊長!」
 だから、どうしてそういうことになるのか。
「誰が『無理だ』などと口にしましたか?」
 自分は言っていない。
 ただ、オーブのことはオーブで解決しろ……とそういっただけだ。
 それも、プラントとオーブが共同研究を行っていると知らなかったからだ、とイザークは口にする。
「……では、出来るのだね?」
「もちろんです!」
 売り言葉に買い言葉とでも言えばいいのか。イザークはクルーゼのこの言葉に、即座にそう言い返す。
「あ〜ぁ。やっちまったよ、こいつ」
 ディアッカがあきれたように呟いている。
「うるさい!」
 売られたケンカは……と言うわけではないが、ここまで言われて黙っているのは自分の矜持が許さない。
 第一、クルーゼをはじめとした者達に《使えない奴》と思われてたまるか、とディアッカにだけ聞こえるような声で付け加える。
「……はいはい。それで、お前のフォロー役が俺なわけね」
 それについては文句はないが、とディアッカは同じように言葉を返してきた。
「何が言いたい?」
「別に」
 いつものことだろう、と彼は苦笑を浮かべる。それがイザークの機嫌を逆撫でしていると気付いているのだろうか。
「納得したようなら、詳しい説明をしたいから、付いてきたまえ」
 だが、怒りを爆発させるまえにクルーゼがこう声をかけてくる。
「……はい……」
 こうなったら、後で何かをおごらせてやろう。そう考えながらもイザークはクルーゼの後を追いかけていく。当然、ディアッカも一緒だった。

 これから起こることが、全て計画されていたものだと彼等が知るのは、それからしばらくしてのことだった。