艦内に非常警報が鳴り響く。 「……まったく……」 どこのバカだ、と呟きながらカナードは立ち上がる。 「カナード……」 そんな彼の背中を、キラの声が追いかけてきた。 「こういう職業をしているとな。逆恨みの一つや二つ、されるものだ」 気にするな、と笑い返す。 「それに、俺は負けるつもりは全くない」 だから、安心して座っていろ……とカナードは続ける。 「カナード」 何と言えばいいのかわからない、という表情でキラが声をかけてきた。その瞳が揺れているのは、彼がカナードの戦いぶりを知らないからだろう。 それとも、別の理由からなのか。 「十分で戻る。そうしたら、今の続きをするぞ」 どちらにしても、自分が戦うべきだ……と言うことは否定できない。だから、笑みを浮かべるとこういった。 「戦闘を見ているのが辛いなら、部屋に戻っていてもいいぞ」 さらにこうも付け加える。 「いえ……大丈夫です」 その表情のどこが『大丈夫』なのか。そういいたいくらい、キラの顔から血の気が失せている。それでも、彼がそう判断をしたのであれば認めてやろう。カナードはそう考える。 「わかった。なら、ブリッジにいろ」 あそこがある意味、一番安全だからな……と口にするとカナードは移動を開始する。 「……気を付けて、ください……」 そんな彼の背中に向けて、キラが声をかけてきた。 「わかっている。心配するな」 振り向くと、カナードは自信に満ちた笑いを返す。そして、今度こそデッキへ向けて移動していた。 調査の結果、間違いなくキラはオーブを出国していた。それも、正式な手続きを踏んで、だ。 どうして、その事実に気が付かなかったのか。 理由は簡単。 キラの出国にはマルキオが絡んでいたから、だ。 「マルキオ様」 どうして、彼がこんな愚行に手を貸したのか。是非とも確認しなければいけない。アスランはその気持ちのまま、彼の元を訪れていた。その隣には、当然のようにカガリの姿がある。 「……はい。確かに、私がキラ君にお願いをしました」 アスランの問いかけに、マルキオはいつものように穏やかな口調で言葉を返してきた。 「何故ですか!」 今のキラに、そんなことができるはずがない。いや、それ以前に見知らぬ者の中でストレスを感じて、症状が悪化したらどうするのか。アスランはそう叫ぶ。 「キラ君でなければできないことだから、です。そして、キラ君自身が、私の依頼を受け入れてくれましたので」 だから、彼を行かせたのだ……とマルキオは言葉を返してくる。 「彼等自体が、一流の人間です。そして、メンバーの中に、医師としての資格をお持ちの方もいらっしゃいます。ですから、安心してお任せをしました」 さらに、こう付け加えた。 「ですが……そいつらがあいつを利用することも考えられるでしょう!」 そうなったら、キラがどうなるのか! と、アスランはマルキオをにらみつける。 「それはありません。一流のジャンク屋や傭兵は、ご自分達の技量に自信を持っておいでです。たまたま行動を共にするようになったオブザーバーの存在を守ろうと行動することはあっても、利用しようとすることはありません。それは、彼等の矜持であり、同時に、そうできないものは一流と呼ばれないのです」 他人を利用しようとした時点で、彼等に対しての依頼は途絶える。それだけ厳しい世界なのだ、とマルキオは言い切った。 「あの方は、私にキラ君の身柄を保証してくれました。それには、彼の心の方も含まれております」 だから、キラが今よりも悪化するはずがない。 「何よりも、キラ君自身がご自分の意志でいかれたのです。私は、その判断こそを大切にして差し上げたい」 キラの中に、失われかけていた《意欲》が戻り始めてきた証拠だから、とマルキオは静かに微笑む。 しかし、アスランにはそう思えない。 だが、何と言えば彼に自分の気持ちが伝わるのか。 アスランがそれを考えていたときだ。 「マルキオ様」 今まで黙っていたカガリが不意に口を開く。 「何でしょうか、カガリ様」 「キラのことは……マルキオ様から彼等に話したのですか。それとも、あちらから?」 いったい、どうして彼女はそんなセリフを口にするのか。それ以前に、どうしてカガリはキラを捜すことに熱心ではないのだろうか、と思う。彼女の性格を考えれば、もっと大騒ぎをすると思っていたのに、とも。 「あちらからです。もっとも、私としてもキラ君以外の適任者はいないと思っていましたが」 この言葉に、カガリは微かに顔をしかめた。 「何故、彼等はキラのことを知っていたのでしょうか」 言われてみれば、もっともなセリフだ。 「キラ君が大けがを負ったとき、私の元に運んでくれたのがたまたま近くにいたジャンク屋の一人でしてね。あぁ、バルトフェルド氏を助けてくださったのも彼等です」 他にも、アークエンジェルやクサナギ、エターナルが隠れていたときに物資を運んでくれていたのが彼等だ、とマルキオが付け加える。 まさか、そんな関わり合いがあったとは知らなかった。それはカガリも同じだったらしい。驚いたような表情を作っている。 「ですから、彼等がキラ君のことを知っていたとしてもおかしくはありません」 情報を素速く入手できることも、ジャンク屋として必要な資質だからだ、と彼は付け加えた。 「……ならばいいのですが……しかし、キラの情報に関しては全て極秘扱いにしていることも事実です」 それなの、と言われて、ようやくアスランはカガリの言いたいことに気付く。 「心配はいりません。ジャンク屋ギルドの方でも彼の情報はトップシークレット扱いになっています。理事長と私の許可がなければ、閲覧すらできません」 だから、迂闊にキラの情報が漏れることはない。 「……だからといって、安心できません!」 今すぐ、キラを連れ戻してくれ! アスランは無意識のうちにこう叫んでいた。 |