とは言っても、ミナと話をするのは別段嫌なことではなかった。それは、彼女が周囲の者達に心を配ってくれているからかもしれない。 「……確かに、オーブからも大勢のコーディネイターが排斥されつつある。それは悲しいことだ。だからといって、プラントに行きたくないというものも多いからな」 そんな人々の受け皿になれればいい。そういう彼女は、既に何かを決意しているのだろうか。 「そうですね。人種だけで相手を憎むなんてことは、して欲しくないですから」 カガリもミナと同じように思っているはずだ。しかし、それを実行に移せないのではないか、とそう思う。 だからといって、彼女は自分が手出しをすることもいやがる。 結局、彼女は自分に何もさせたくないのだろうか……とそんなことも考えてしまうのだ。 「だから、だ。私は私を頼ってここに来てくれた人々を守りたいと思う。カガリ・ユラがオーブという国を守りたいと思っているようにな」 どちらも矛盾をはらんだ考えかもしれない。しかし、それを貫き通せるだけの力が自分にはあると思うのだよ、と彼女は笑う。 「サハク様」 「ミナでかまわん」 言葉とともに彼女はさらに笑みを深めた。 「君にも、私がこれから何をしようとしているのか、その目で見届けて貰おう」 それまで、ここに滞在して欲しい。もし、気が向いたらシステムの増強に付き合ってくれれば嬉しい。そう口にすると彼女は腰を上げる。 「本当はもっと君と話をしていたいのだが、時間がなくてね」 申し訳ない、とミナは口にした。 「いえ。気になさらないでください」 自分には構わずにやるべきことをやって欲しい、とキラは言外に付け加える。 「そうだな。その後でまた時間が取れたら、付き合ってくれたまえ」 言葉とともに、彼女はマントの裾を翻しながら歩き出す。その後をソウキス達が付いていく。彼等の存在には最初驚いたが、それでもミナの元で生きる意義――と言っていいのだろうか――を見いだせているのであれば、それはそれで幸せなのではないだろうか。 もっとも、彼等のような存在が生み出されるようなことがない世界の方がいいのだろうが。 そんなことを考えていれば、いつの間にか歩み寄ってきていたカナードが肩に手を置いてくる。 「あいつらにしてみれば、使い捨てにされないここの方がいいに決まっているからな」 だから、あまり深く考えるな。そう付け加える彼に、キラはわだかまりを押し殺しながら頷いてみせた。 そして、世界を驚かせる宣言がミナの口から全世界へと発信されたのはそれからすぐのことだった。 オーブとしても、まさしく寝耳に水という宣言だったと言っていい。 しかし、それ以上にまずい状況がオーブ――というよりもセイラン――には降りかかっていた。 「カガリ様、これはいったいどういうことなのか、説明していただけますか?」 言葉とともにウナトが彼女に詰め寄ってくる。 「どういうことも、こういうことも。条例違反で摘発されただけだろう」 その条例は今でも有効なものだ。だから、それに違反しているのであれば摘発をされてもしかたがないことだろう。 「ウナト殿が前代表をはじめとした方々が作られた条例を忘れておいでのはずがないだろう?」 ウナト自身も署名したはずだからな、とカガリは付け加える。 「最近、あちらこちらで規律がゆるんでいるという話だ。だから引き締めを、と先日の首長会で議題に出した時には貴殿らも賛成しただろうが」 軍部も警察も、それを忠実に遂行しただけだ……と相手をにらみつけた。 「何よりも、首長家に関わりのある企業ですら摘発をされると知れば、その公平さを国民に知らせるにはよい機会だと思うが?」 ここまで言い切ればウナトとしても反論のしようがないらしい。だからといって、納得をしたわけではないだろうことはその表情からもわかった。 「……確かに、そうかもしれませんな」 だからといって、ここで自分たちから率先をして法令違反を見逃すわけにはいかない、と言うことか。 「ですが、その条例を見直されては……」 「それはできないな。そんなことになれば、モルゲンレーテをはじめとした企業が他国の手に渡るかもしれない。いや、母体そのものは残っても、全ての技術が他国のものになる可能性もあると思うが?」 今ですらプラントに移住していく技術者が多いというのに、と言外に言い返す。その原因となっているのもセイランだろうが、という非難をこめていることに彼は気付いているだろうか。 「調べてみたが、あの条例の一つを改訂すると他のものが有名無実になる。だから、下手にいじらない方がいい」 何よりも、国民にそっぽを向かれては国として成り立たないのではないか。 少なくとも自分はウズミにそう教育されてきた、とカガリは口にする。 「わかりました。ですが、こちらでも一応検討させて頂きます」 悔し紛れなのだろうか。こう言い残すとウトナはきびすを返す。そして、そのまま足音も荒く出ていった。 その姿が見えなくなったところで、カガリは安堵のため息を吐く。 「……今回ばかりは、キラに感謝、だな」 いすの背に体重を預けながらこう呟いた。 「キラが、どうしたんだ?」 今まで黙って控えていたアスランが、即座に反応をしてくる。本当にキラのこととなるとここまで表情が変わるのか、と言いたくなる。同時に、自分の時でもそんな反応を見せてくれるのかと問いつめたい。 それでも、以前ほど不安は感じない。それは、キラが好きな相手を見つけた、とラクスから聞かされたからだろうか、と心の中で自分に問いかける。 「マルキオ様からの連絡で、オーブの現状を聞いたらしい。それで、今回のことのヒントをくれたんだ」 おかげで、しばらくは時間が稼げそうだ、とカガリは微笑んでみせる。 「あいつが姿を消したのが、本当にマルキオ様の指示だとわかって安心したよ」 かならず帰ってきてくれるとわかったから、と付け加えれば、アスランは微妙な表情を作った。 「それで、キラは今どこに?」 「……そこまでは教えてくれなかった。でも、キラが帰ってくるとわかっただけでも十分だと思うぞ、私は」 それに、今ここにキラがいてもセイランに利用されるだけだ。その言葉にもアスランは納得してくれない。 それに本人が気付いているのかどうか。 この事実だけがカガリにとっては気がかりだった。 |