カナードが使っている母艦は、かつて地球軍に所属していたのだ、という。
 だからだろうか。
 どこか懐かしいような気がするのは。
 そんなことを考えながら、キラは久々の宇宙の光景に目を向けていた。地球が次第に小さくなっていくのがわかる。
「……みんな、心配しているかな」
 カナードの言葉にここまで来たが、考えてみれば誰にもここに来ることを知らせてはいない。だから、と思うのだ。
「一応、マルキオ様には連絡しておいた。あの人に任せておけばいい」
 きちんと対処をしてくださるはずだ……と言われて、キラは納得をする。
「そうですね」
 ならば、彼等にとってこの状況は望ましいのではないだろうか。
 それでも、ラクスや両親には心配をかけたくないと思う。
 しかし、、確かに彼に任せておけば大丈夫だろう。子供達にも両親にも、きちんと話をしてくれるはずだ。
 でも、と思う。
 あの二人もそうなのだろうか。
 彼等は、自分があの島から出ることを快く思っていないらしい。あるいは、あそこに閉じ込めておきたいと思っていたのではないか。
 ひょっとしたら、それが自分に科せられた罰だったのかもしれない。そんなことすら考えてしまう。二人にとっては、自分の存在は迷惑だったのかもしれない、とも。
 だから、自分の意志の先回りをし、あれこれ取りそろえることで自分が何かをすることすら封じようとしたのだろうか。
「何を考えている?」
 いつの間にここまで近くに来られていたのだろうか。そんなことを考えながら、キラはいつの間にか落としていた視線を慌てて上げた。そうすれば、間近に自分のそれとよく似た紫の瞳が確認できる。
「カナードさん」
 何と言えばいいのかわからずに、キラはただ、彼の名を呼んだ。
「カナードでいい。その方が呼ばれなれているからな」
 年齢にしても、一つしか違わないからな……と彼は笑ってみせる。
「……ですが」
「気にしなくていい」
 むしろ、遠慮される方が困る……と彼は続けた。
「これからはしばらく、パートナーとして付き合って貰うんだ。余計な遠慮をされたせいで作戦が失敗するようなことになれば厄介だ」
 その言葉に、キラはまた視線を落としてしまう。
「ったく……そのくらいで落ちこむな」
 ため息とともに彼の指がキラの顔を強引に持ち上げられた。
「いいか? 俺は今まで一人で戦ってきた。もちろん、ここでバックアップしてくれる存在はいたがな」
 流石に整備や何かまで一人でできることは難しいから……と彼は苦笑とともに告げる。
 それはキラにもいたいほど身にしみている事実だ。だから、反論する気にはもちろんなれない。
「その俺が、初めて自分からお前をパートナーに選んだんだ。その事実に、もっと自信を持て!」
 さらに彼はこう言ってくる。
「……でも、僕は……」
 守ると約束をした人も守れなかった。そして、多くの人の恨みを買っている。
 そんな自分がどうして自信なんかもてるのだろうか。今ですら、こうして生きていることにも罪悪感を覚えてしまうのに……とキラは心の中で呟く。
「……俺たちは、確かに他人より優れた力を与えられている。でも、万能ではないぞ。一人で全てを解決できるようなそんな存在ではない」
 あくまでも人間だからな、とカナードは口にする。
「……そうなのでしょうか……」
 とてもそうは思えない。
 今でも、あの時クルーゼに投げつけられた言葉が耳に残っている。
 そして、それは正しいのではないか。キラはそう思うのだ。
「そうだ。地球軍の実験材料だった俺が、そういうんだ。間違っているはずがない」
 しかし、カナードが何気なく付け加えたこの一言がそれを打ち砕いた。
「……カナード……」
 何気ない一言だったからこそ、余計にインパクトが強かったのかもしれない。
「何を……」
「気にするな。既に終わったことだ」
 それなりに報復もさせて貰ったしな……と彼は笑った。その表情が力強い、と思う。
 同時に、彼の何が父を満足させなかったというのだろうか。そんなことも、考えてしまう。自分よりも、よっぽど彼の方が《最高のコーディネイター》という名前にふさわしいのではないか。そんな風にも思うのだ。
「それよりも、食事に付き合え」
 その後で打ち合わせをするぞ。カナードはこういう。もちろん、それに関しては異存がない。
「わかりました」
 だから、素直に頷く。もっとも、空腹を覚えているわけではない、というのも事実ではあるが。
「なら、こっちだ。ついでに、家のメンバーにも紹介をしておく」
 いろいろと個別に打ち合わせてもらわなければいけない状況もあるだろうからな、と付け加えられて、キラは小さく頷く。
「ただ、先に言っておくぞ。あいつらは俺のことを知っている。だから、お前のことも興味津々だ」
 あれこれ、検査させろ……とぐらいは言われるであろうことは覚悟しておけ。カナードはそうも付け加える。
 その瞬間、キラは自分の体が強ばってしまったことを自覚した。
「心配するな。お前に危害だけは加えないはずだ」
 興味さえ満足させてやれば、連中ほど大人しい奴らはいない。そういいきれるカナードはやはり強いのではないか。キラはそんなことを考えていた。