多数に無勢なら、自分たちの位置が重要だ。
 有利な場所さえ確保できれば、数の優位をひっくり返すことができる。それがセオリーだと言っていい。
 そして、それは間違ってはいなかった。
「終わったぞ、キラ」
 そちらは、と問いかければ、キラもまたモニターから顔を上げる。
「こちらも、だいたい終わったよ」
 ロックを解除できなかったみたい……と彼は続けた。
「それは良かった」
 自分たちのような存在ならともかく、彼等の技術力であれば《きょうだい》達のような存在を増やすだけだ。
 もっとも連中にはそれがわからなかったのだろう。
 それとも、と嫌な考えが心の中にわき上がってくる。
 ここにあるデーターを手に入れた後、その解析をするために《成功体》をも手に入れるつもりだったのか。
「……これは、俺のものだ……」
 誰がそんなことをさせるか、とカナードはこっそりと吐き捨てる。
「カナード?」
 はっきりとは聞き取れなかったのだろう。どうかしたの? とキラが問いかけてきた。
「……連中をどこに捨ててくるか、とそう思っただけだ」
 取りあえず、ここに置いておくわけにはいかない。
 ついでに、誰の仕業かを確認しないといけないだろう。
 こう言えばキラは首をかしげてみせる。
「そういえば、あの中に拉致された人がいるかどうか、確認してなかった」
 ひょっとして、ケガをさせてしまったのだろうか。キラはそういって瓦礫の方へ視線を向けた。
「どうだろうな」
 本当に些細な仕草ではある。しかし、あくまでも彼らしいそれにカナードの唇には淡い笑みが浮かんだ。
「本当に拉致されてきたのであれば、俺たちの攻撃を機に反撃をされるかもしれない。だが、連中にとっては必要な存在だからな。攻撃を受ける前にどこかに閉じ込めて奥だろうな、普通」
 もっとも、望んで付いてきた連中ならば、猫の手よりもましと言うことであそこに連れ出されていただろうか。そう考えて、カナードは即座に自分の考えを否定する。
他の場所でならばともかく、戦場で素人があれこれやるほど恐いものはない。それが味方であっても同じ事だ。
 ならば、適当な理由を付けてどこかに非難させている可能性の方が高いだろう。
「……そうか。全部が終わった後でザフトのお前の友達に連絡をすればいいのか」
 自分たちがしなくても、ジャンク屋に頼めばいい。
 彼等にしても、ザフトが自分たちを見る目を少しでもよくしてくれる可能性があるのであれば動いてくれるだろう。
「と言うことは、やっぱりこいつらをどこかに片づけておかなければいけないってことだな」
 面倒くさい……と本気で思ってしまう。
「そのくらいは手伝うよ」
 苦笑とともにキラがこう言ってくる。
「そうだな。連中も意識は取り戻さないだろうから……その間に何かで縛り上げるか」
 いや、それよりもどこかに放り込んでおいた方が後々楽かもしれないそんなことも考える。
「適当に引きずっていくだけでいいからな」
 後は自分が担当をすればいいだろう。そうも判断する。
「わかった。でも、これなら、重力が内容がよかったかもね」
「……否定はしないな」
 その方が運ぶという点では楽だっただろう。しかし、敵の動きを止めるという点では作戦中に重力が戻った方がよかった。
「本当、善し悪しだな。いろいろと」
 まぁ、そういうものかもしれないが……と思いながら立ち上がる。
「万が一と言うことがある。お前はそこで待っていろ」
 その間に、もう少し連中が何をしていたのかを調べておいてくれ。そうも付け加える。
「うん」
 カナードの言葉にキラは小さく頷いてみせた。
「何かあったら、すぐに呼べ」
 自分一人で何とかしようなどと思うな。さらにこうも注意をする。
「わかっているよ、カナード。その時には君の方に逃げていくから」
 生身だと、絶対に勝てないだろうから……とキラは苦笑を浮かべながら言葉を口にした。
「そういうことに対して自信を持たれても困るんだがな」
 これが終わった後に、ちゃんと自分のみを守れる程度の技術は教えてやるよ……とそう告げるとカナードは慎重に隠れ家から出て行く。
 しかし、それは二人がまた別々の道を行くことになると言うことでもある。
 キラが側にいないという状況は不本意だ。それでも、キラのためを考えれば妥協するしかないだろう。
 それに、とカナードは心の中で付け加える。
 キラはともかく、自分は自由に動くことができる立場だ。だから、自分が会いに行けばいいだけのことだ、とそうも思う。
 マルキオの所有する島であれば、自分が出入りをすることにも何も言われないはずだ。それに、あそこであればキラも安全だと思える。
 だから、何も問題はない。
 後は、少しの寂しさに耐えればいいだけだ。それに、その分、再会したときに楽しめるだろう。
 カナードはこう考えることで自分を納得させようとしていた。