「ここはいいから、さっさと自分たちの仕事をしな!」
 ジャンク屋達が乗ったMSからこんな声が飛んでくる。
「いいのか?」
「もちろん。その代わり、こいつらの始末については何も言うなよ?」
 自分たちに一任しろ、と彼は言い切った。
 もちろん、カナードに異論はない。
「好きにしろ」
 自分にとって重要なのは、連中の生き死にではない。データーが持ち出されていないこと。そして、残されたデーターをきちんと処理することだ。
「……カナード?」
 だが、キラはそう考えてはいなかったらしい。理由がわからない、と言うようにこう問いかけてくる。
「何。人の命を取ろうって言うわけじゃない。要するに、連中のMSを貰おうって言うことだ」
 そのまま使うか、それともバラして売るか。
 それは彼等の裁量に任せると言うことだ。そういえば、キラも納得したらしい。小さく頷いて見せている。
「中の施設は、彼等でも見て欲しくはないからな」
 正確に言えば、一番奥のあそこだけだが……とカナードは心の中で付け加えた。しかし、キラにはしっかりと伝わったようだ。
「そう、だね……終わってからなら、構わないけど……」
 でも、とあることに気が付いたと言うようにキラは時計を確認する。
「後十五分だけど……」
 大丈夫? とキラは視線を向けてきた。
「もう、そんなか」
 最初に三時間と時間を区切ったのは自分だ。しかし、実際に時間ぎりぎりまでかかるとは思わなかった。
「わかった」
 だからと言って、時間を巻き戻すわけにはいくまい。
 ならば、それを有利に使う状況を作り出す方がいいだろう。そう判断をする。
「時間に気を付けてくれ!」
 同時に、ジャンク屋達に向かってこう告げた。これだけならば、相手には意味がわからないだろう。
『了解』
『いっそ、上からジャンクを降らせてやろうか』
『それ、いいかもな』
 しかし、ジャンク屋にはしっかりと伝わったらしい。さらに楽しげな提案までしている。
「……そのアイディアは使えるかもな」
 連中の上に落とせそうなものならば、内部にもたくさんあるはずだ。
 敵の方が人数が多いことはわかっている。そして、キラに他人を傷つけさせることはしたくない。
 そう考えれば、少しでも安全を確保して……と言うことになる。
 外でのこの様子では、内部でも警戒をしているだろう。それでは、奇襲をかけることは不可能だ。だからといって、エアを汚染するような薬物も使えない。
「……時間ぎりぎりに連中の頭の上に塵を移動させて、それに驚いている隙をついて制圧をするか」
 そうすれば、少しでもキラの負担を軽くできるかもしれないしな……と心の中でそうも付け加える。
「カナード?」
「適当な塵を持って中に入るぞ」
 この状況であれば、人力でもかなりの量を運べるはずだ。
 そもそも、そのために建造中はコロニーに重力をかけない。そして、建造後も大規模な修理を予想して重力を切ることができるようにもなっている。それは、最悪、人力で建造に必要な物資を運ばなければいけないからだ。
 考えてみれば、MSが運用されるようになって、まだ五年と経っていない。
 かといってミストラルでは細かい作業がむずかしい。
 壮観がwれば、人力が一番確実だったからだろう。
「わかった」
 あまり大きなものでなければ、怪我人も少なくてすむよね……とキラは小さな声で付け加える。
「だろうな」
 そういう考えがキラらしい。
 敵であろうと命を奪わなくてすむならその方がいい。そう考えられるのは立派だ。
 そして、キラならばその気になればある意味荒唐無稽な願いと言われそうなそれも可能にできるのかもしれない。
 何故、そう考えるか。
 それは、自分ができると思うからだ。ただ、自分はそこまで優しくないから、それこそ手間だけかかって面倒としか思えないそんなことをする気になれないだけだが。
「……できるだけ、お前は攻撃をするな。それは俺の仕事だ」
 キラがMSを操縦しているときには決して言わないであろうセリフを口にする。
「……うん」
 自分が銃を撃つと弾がどこに飛んでいくかわからないから……と彼は苦笑とともに言い返してきた。
「これが終わったら、少し特訓してやるよ」
 いやかもしれないが、それでも技量はあった方がいい。そうすれば、自分だけではなく周囲の者も守れるようになる。それがキラの自信につながるならばそれこそ一石二鳥というものだ。
「……そうだね……」
 複雑な口調でキラはこう言い返してくる。
「まぁ、それは全て終わってからだ」
 今はやるべきことをやるぞ。この言葉に、キラも頷いてみせた。