自分たちの作戦が的中したことに、カナードは満足を覚えていた。
「人質に死者が出なかったのはお前のおかげだな、キラ」
 ドレットノートイータのハッチを開ける前に、彼は隣にいるキラにこう声をかける。
「カナードが強かったから、だよ」
 しかし、キラは『自分のせいかだ』とすぐには認めようとはしない。その事実に、カナードは思わず小さなため息を吐いてしまう。
「俺一人では、ここまで短時間で作戦を完了させることはできなかった。お前がメンデルのシステムを掌握してくれていたからこそ可能だったんだ」
 バックアップが有能だから、実行が楽なんだ。カナードはさらに言葉を重ねる。
「何より、俺がお前が側にいてくれて心強かったんだぞ」
 だから、そんなことを言うな……と口にしながら、彼の肩に手を置く。
「それに……これからが正念場だ」
 こちらは、連中が迂闊な動きをしないように最低限の人員で見張っていただけらしい。と言うことは、あちらの方は警備も厳しいと思える……とカナードは口にする。
「連絡も行っているだろうしな」
「……向こうも、準備をしているって言うことだよね」
「そういうことだ」
 奇襲が使えない以上、こっそりと忍び込むしかないんだが……とカナードが考え込むようにあごに手を当てたときだ。
「そういうことなら、協力させて貰おうか」
 不意に背後から声がかけられる。視線を向ければ、確かこの地で作業をしていたここに捕らわれていたジャンク屋のリーダーがこちらに視線を向けているのが確認をできた。
「俺たちとしても、人の仕事を邪魔してくれた連中にそれなりにお礼をしないときがすまないからな」
 酒も飲めなかったんだぞ……と言う彼の言葉に、カナードの脳裏にリードの姿が浮かび上がる。どうやら、ある一定以上の年齢のナチュラルの男性には、こういう存在が多いらしい。そう判断をする。
「……とは言っても、相手は武装しているぞ」
「だが、今度はこちらも奇襲を受けるわけではないからな」
 それに、連中の装備も利用させてもらう予定だし……と彼はさらに付け加える。
「そういうところがジャンク屋だよな」
 使えるものは何でも使う。
 そういう気概がないと、彼等の場合、仕事にならないのかもしれないが……とカナードは心の中で呟く。
「おうよ」
 そうでなければジャンク屋なんてやっていられない、と彼はさらに笑いを深める。
「……すごいね……」
 だが、キラの方は完全に腰が引けている。
「自分たちだけの力で全てを切り抜けていくのがジャンク屋だ。それだけに技術は目を見張るものがあるぞ」
 もっとも、戦闘となれば正規に訓練を受けてきたものの方が強いのは事実だが……と口にしながらも、カナードは彼等の申し出を受けるべきかどうかを考えていた。
 相手の装備が正確にはわからない。
 だが、ここに残されていたものと大差ないだろう。問題なのはMSのうむだが、それに関しては自分が早々に片づければいいのではないか。
 もっとも、内部に足を踏み入れる人間は少ない方がいい。自分とキラだけで十分だ、とすら思えてしまう。
「それで? 俺たちが勝手にお礼参りをしていいのか?」
「いや、手伝ってもらえればありがたい。だが、こちらとしても守秘義務を課せられた依頼もあるからな。どこで線引きをすべきか、悩んでいただけだ」
 この言葉に、彼も納得をしたらしい。
「わかった。俺たちがしたいのはあくまでもお礼だからな」
 そちらの仕事の邪魔はしない、と彼は続ける。
「では、打ち合わせをするか。手早くな」
 この状況が続いているうちにさっさと外の連中だけでも片づけたいからな。カナードのこの言葉に、男達は頷いてみせた。

「……アスラン……少しは休まないと……」
 ついでに、少しは自分を構って欲しい。
 そういいたいのに口に出せないのは、彼が誰のために作業を続けているのかを知っているから、だ。
 彼が犯罪ぎりぎりの行為をしてまでも情報を集め、そして、それを分析してくれているのは、間違いなく自分のためのはず。
 しかし、正確に言えば自分のためだけではない。
 ひょっとしたら、自分よりももう一人のため……と言う気持ちの方が彼の中では強いのではないか。
「アスラン」
 そんなことはないとは思いたい。
 一度芽生えてしまった疑念は、どうしても打ち消すことができないのだ。
「大丈夫だよ、カガリ。それよりも、お前はもう休め」
 明日から忙しいだろう、と彼は一瞬だけ、視線と微笑みを向けてくれる。だが、すぐにモニターに視線を戻してしまった。
「アスラン!」
「俺は、明日からしばらく、休暇だそうだからな」
 大西洋連合の使節が来るのに、代表の側にコーディネイターなんか置いておけないと言うことだろう。彼は自嘲気味に付け加える。
「……あいつら……」
「心配するな。取りあえず、できるだけ近くにいるようにはするさ」
 公的に、情報整理をする時間がもらえたと思えばいいだけだ……とそういう彼の表情は見えない。
「……それに、これさえ終われば、キラを連れ戻しても大丈夫だからな」
 アスランにすれば何でもない一言だったのだろう。それでも、今のカガリには聞きたくはないものだった。
「……キラ、か……」
 アスランの口から彼の名前を聞く度に、胸の中で何かが次第に大きくなっていく。しかし、それを表に出すことはできない。
「無事でいてくれればいいんだが」
 その代わりに、カガリはどこかしらじらしい口調でこんな言葉を口にしていた。