予想していなかったと言えば、嘘になるだろう。しかし、ここまでその通りだと逆に笑いすら浮かんでしまう。
「……どこのバカかは知らないが……それなりの報復を受けて貰わなければいけないだろうな」
 データーを手にしているというのであれば、それを破棄させなければいけない。カナードはそうも付け加える。
 しかし、すぐにそちらに手を付けるわけにはいかない。
「その前に、もう一方を調べるぞ」
 もし、人質がいるのだとすれば、そちらの方だろう。そして、その人質がジャンク屋なのであれば、こちらの味方になってくれる。
 それでなくても、人質がいては戦いにくい。
「うん」
 キラも同じ判断をしてくれたのか――あるいは、カナードの判断を信頼してくれているのかもしれない――すぐに頷いてくれる。
「なら、移動をするぞ」
 問題なのは、相手が持っているセンサーの精度だ。
 まぁ、ドレットノートイータであれば、フリーダム以外の機体に負けるつもりはない。
 しかし、完全に被害を出さずに……となるとむずかしいのではないか。
「……こう言うときに、メンデルのシステムが死にかけているのは辛いな……」
 それがあれば、十分に調べられるのだが……とカナードはため息を吐く。
「いっそ、それを逆手に取ってしまう?」
 しかし、キラが予想外のセリフを口にしてきた。
「キラ?」
「……コロニーの回転を一時的に止めることは可能だよ。その程度なら、エアも抜けないし」
 予想していないから、相手も驚いてしまうのではないか。そこに攻撃を仕掛ければ、無駄な怪我人を出さなくてすむかもしれない。キラはさらに言葉を重ねる。
「……余計なことだったら、ごめん……」
 だから、どうして最後にそう付け加えるのか。カナードはそういいたくなる。
 それとも、そういわなければならなかったのか。
 というよりも、キラがものを考えることを本気で否定しようとしていたのかもしれないな、と素なことも考えてしまう。もちろん、それはあの二人が、だ。
「余計なことじゃないだろう?」
 だが、今はその感情を表に出すときではない。それでは、キラは『自分が口を出すことは余計なことだ』と認識してしまうだろう。
「案を出してくれるのは、協力者なら当然のことだって。それを選択するかどうかは、実行する側の都合だろうが」
 案は多い方がいい。そうすれば最良のものが選べるからな、とカナードはさらに言葉を重ねた。
「……カナード」
「それに、実行できるのであれば、いい作戦だと思うぞ」
 もっとも、人質もパニックを起こすかもしれない。それでも、ジャンク屋であればそのような場所での作業も多いはずだ。だから、すぐに冷静さを取り戻すだろう。そうも判断をする。
「できるか?」
 ここから、とカナードは問いかけた。
「できると思うよ。取りあえず、ここの管理システムには侵入済みだから」
 後は、そこの部分を一時的に遮断をすればいいだけ……とキラは付け加える。
「なら、頼む」
「……時間は?」
 ずっと切っておくのか、それとも……と問いかけてくる彼に、カナードは少し考え込む。
「……そうだな……三時間程度で十分だろう」
 こちらを掌握して、それからあちらを把握するまでに、と言葉を返した。
 途中で時間切れになっても、連中はさらに慌てるだけだろう。味方には、事前に伝えておけば焦ることはないだろう。
「わかった」
 言葉とともにキラは作業を始める。
「作業が終わったら教えてくれ。突入をしやすい位置に移動をする」
 相手が混乱している間に全てを終わらせたいからな。カナードのこの言葉に、キラは小さく頷いてみせた。

「……キラがいてくれれば、もっと確実なんだろうが……」
 こう呟きながら、アスランはセイラン家のホストコンピューターへと侵入を試みていた。
「アスラン……」
「大丈夫だ。キラほどじゃないが、俺だってそれなりに訓練を受けてきた人間だからな」
 侵入するだけならば可能だろう。
 問題は痕跡を消す方だ。そちらに関しては自信がない。
 もっとも、そのためにこの場所を選んで作業を行っているのだ。ここは、占領中に地球軍が使っていた施設である。幸か不幸か、装備をそのまま置いていってくれたのだ。
「……それよりも、外の様子を確認してくれ」
 連中のことだ。軍は無理でも警察程度は動かす可能性がある。万が一の避難経路も確保してあるとはいえ、不意をつかれたら意味がない。
「わかった」
 カガリもそれがわかっているのだろう。素直に頷いてみせる。
 その間にも作業は進めていた。こんな時に、以前キラから取り上げたハッキングツールが役に立つとは思わなかった。そんなことも考えてしまう。
 だからといって、キラにこんなことをさせるつもりはないが。
「よし……」
 そうしているうちに、何とか侵入を果たした。
「選んでいる時間はないな。適当にコピーするぞ」
 情報の整理は後でもできるだろう。
「……そうだな」
 アスランの言葉に、カガリはどこか不満そうだ。しかし、今はそれを問いただしている暇がない。だから、とアスランは自分の作業に没頭をしていった。