ザフトのパトロール艇が離れていったことを確認してから、カナードはキラの元へと戻った。 「カナード」 そんな彼を見て、キラがほっとしたような表情を向けてくる。 「……いったい何があったのかはわからないが、面倒なことをしてくれる」 おかげで、予定が狂った……とぼやきながらも、キラのその表情にうれしさも感じていた。 こんな表情を向けてくるのは、間違いなく彼が自分を信頼してくれているからだろう。 しかし、それとこれとは話が別だ。余計な手間をかけさせられたのは事実だろう。そう付け加えながらキラの隣に腰を下ろす。 「……プラントの遺伝子関係の研究をしていた人が誰かに拉致されたらしいよ……」 ここに来たのが知り合いだったから、こっそりと教えてくれた。彼はそうも付け加える。 「……嫌な偶然だな」 この場で臨検があったと言うことは、メンデルも調べ上げられているのだろうか。だとするならば、目的はあそこかもしれない。 その事実に気付いて、カナードは顔をしかめる。 「カナード……まさかとは思うんだけど……」 キラも同じ事を考えていたのだろう。こんなセリフを口にする。 「わかっている。偶然で片づけられないかもしれないな」 自分の元に届いている情報から判断して、とカナードは顔をしかめてみせた。 「ともかく、メンデルに急いだ方がいいだろうな」 途中でまたザフトに止められなければいいが……と心の中で呟く。今回のことから判断をしてその可能性がないとは言い切れないのだ。 「そう、だね」 そうしなければ、彼等が利用されてしまうかもしれない。利用されないまでも、その姿を悪意の視線の中にさらしてしまうのではないか。キラはそれを不安に思っているのはないだろうか。 「大丈夫だ。ザフトが動いているなら、連中にしてもそう簡単にはたどり着けないだろう」 それならば、条件は同じだ。 いや、相手の方が悪いに決まっている。 少なくとも、自分たちの船にはザフトが探しているものはいないのだ。臨検で少々時間を取られたとしても、止められることはないだろう。 しかし、連中はそうはいかない。 「先に到着さえできれば、内部の情報を持っているこちらの方が有利だからな」 そして、自分とキラが一緒であればどのようなことだって解決できるだろう。この言葉とともにカナードは微笑みを向けた。 「……そうだね」 不本意だけど、と表情だけで付け加えているキラの頬に、カナードはそっとキスを送る。そのままさりげなく移動させて、その唇にも自分のそれを重ねた。 軽く音を立てて離れた瞬間、キラが真っ赤になっているのがわかる。 「どうしたんだ?」 これくらい、いつものことだろう? と少しからかうように問いかけた。 「……ディアッカに、これ、見られた」 こう言いながら、キラは首筋を手元で覆う。 「気にするな」 恥ずかしがるからからかわれるんだぞ、とカナードは笑った。 「それに、あいつも何も言っていかなかっただろう?」 その後で自分とも顔を合わせたが、何も言わなかったぞ……とその表情のまま付け加える。 「カナードだと、思ってなかったからかも……」 可能性は低いと思うけど……とキラはため息とともにはき出した。 「あいつは、聡そうだったからな」 「というより、ここが本来はカナードの部屋だって言うだけで、十分だと思う」 ディアッカはそういうことに関しては本当に聡いんだよ……とキラは口にする。 「でも、言わないでと言っておいたから、多分内緒にしておいてくれると思うけど」 アスラン達にばれたら困るから……という言葉から、キラの中であの男がまだ強い影響力を持った人間なのだと位置づけられているのがわかる。 ようやく、その影響力が薄れてきたのか、と思ったのだが……と心の中でため息を吐く。 「ばれたからと言って、あいつに何もできはしないさ」 だから、安心しろ……とそれでも笑ってみせる。 「カナード」 「そう簡単に、宇宙にあがってこられるはずがない。まして、あいつはカガリ・ユラ・アスハの護衛なのだからな」 自分の役目を放棄してまでキラを取り戻しにこれるはずがない。そう付け加える。 もっとも、そこまでするようであれば、それなりに感心するかもしれないが。そうも心の中で付け加えた。 「そう、だね……カガリが、反対するよね」 キラは何かを考え込むようにこう呟く。 「キラ?」 「アスランも……僕よりもカガリを優先しないと……」 彼女を支えられるのは、今、彼しかいないんだから……とキラはさらに言葉を重ねる。 それは、間違いなく《カガリ・ユラ・アスハ》が今置かれている状況をキラが正確に認識していたと言うことだろう。それを、あの二人だけが知らなかったのではないか。 「……あの男も、バカだからな」 常識とやらに縛られて、自分の本心に気付いていないのだろう……と心の中だけではき出す。もっとも、今更気付いて貰っても遅いが。 「カナード?」 どうしたの、とキラが不安そうに問いかけてくる。 「いや……さらに痕を残したら、お前が怒るかな……とちょっと悩んでいただけだ」 にやりと笑いながらこう言えば、キラは頬を赤く染めた。 「カナード!」 しかし、次の瞬間、こう怒鳴りつけてくる。 「愛しているぞ、キラ」 暴れる彼を腕の中に閉じ込めて、カナードはこう囁く。そして、キスを贈った。 |