カナードの腕の中で、キラが小さなため息をつく。
「……眠ってもいいぞ」
 後始末はきちんとしてやる、と笑いながら声をかければ、彼は慌てたように首を横に振ってみせる。
「自分でするから」
 ようやく行為にはなれてきた――と言うよりは、快感で何も考えられなくなっているだけなのか――ようなキラだが、正気の時に触れられるのはまだ恥ずかしいらしい。そういうところが可愛いのだが、とカナードは心の中で笑いを漏らす。
「いいから、任せておけ」
 そんな反応をされれば逆効果だとわからないのか。そう思いながら、キラの体をまた組み敷く。
「……カナード……」
 不安そうな視線で彼は見上げてくる。
「大人しくシャワーブースに行くか? それとも、もう一回するか?」
 どちらがいいか、と笑いとともにキラに問いかけた。
「カナード……」
 泣きそうな表情で彼はカナードの真意を確かめようとしてくる。その表情にカナードの中で何かがざわめき始めた。
「俺はどちらでも構わないぞ」
 取りあえず、今はそれを押し殺しておく。
「……僕は、自分で……」
「それは却下だな」
 しかし、キラの反応は本当に自分を楽しませてくれる。それが表情に出ているのではないか。キラの瞳に映っている自分は、実に楽しげな笑みを浮かべていた。
「どうして?」
 そんなカナードに向かって、キラが問いかけてくる。
「俺がしたことだからな。これは」
 本当に、これで女性と付き合っていたのか。キラの様子にそんな疑問がわき上がってくる。しかし、彼の言葉から推測をすれば、本当にままごとのような関係だったのだろう。だから、ある意味、無知とも言える態度を見せるのではにか。
 もっとも、そっちの方が楽しいと言うことは否定しない。
 そういう状況なら、自分の好みを教え込めるだろうし……と思いながら、さらに言葉を重ねる。
「だから、責任を取ってここを綺麗にしてやるよ」
 言葉とともに、いまはもう完全にすぼまってしまった後蕾を指の腹でそうっと撫でた。その瞬間、キラはとっさにカナードの腕を掴む。しかし、それでもカナードの動きを止めるほどではない。
 後蕾も、ゆっくりと慎みを失っていく。それを確認してから、カナードはその内側に指を滑り込ませた。
「ほら、あふれてくるぞ」
 指を伝いながら落ちていく物を指摘してやれば、キラは全身を羞恥で染める。
「カナード……」
 それでも、別の感覚がそこから広がってくるのか。困惑に満ちた声音でキラはカナードの名を呼んだ。
「きちんと後始末をしないと、辛いのはお前だからな」
 それを無視してカナードはさらに言葉を重ねる。そして、そのまま片手でキラの体を抱き起こす。
「んっ!」
 指は抜いていないままだ。だから、さらに奥まで押し込まれてしまったのだろう。必死に声を押し殺しているのがわかった。
「大人しくしていろよ?」
 笑い声を漏らしながら、カナードはキラを抱き上げる。そして、そのままベッド降りるとシャワーブースへと向かう。
「カナード!」
 キラの焦ったような声が心地よく響いた。

 資料に目を通して、カガリは思いきり渋面を作る。
「……いつの間に……」
 こんなことになっていたのか。そう呟いてしまう。
「法令ではなく条例で決まったことだから、だろうな」
 首長会の認可を経なくても決めることができる。だから、担当の省庁に力を持っている首長家が自分たちの都合のようにごり押しをしたとしても気付かない可能性はあるだろう、とアスランはため息とともに告げた。
「本来であれば、許されることじゃないのだろうが」
「……私はお飾りだから、な」
 自嘲の笑みとともにカガリはこう口にする。
「カガリ!」
 アスランが何かを制止するかのように彼女の名を呼んだ。
 そんな些細なことでも嬉しいと思ってしまう自分が悲しい。それとも、恋をしていればこれが普通なのだろうか。
「本当のことだろう? 私に求められているのは、ただ頷いて署名をすることだけだ」
 軍の者達はまだ、自分を支持してくれている。
 しかし、それ以上にキラの存在を待ち望んでいるものが多いような気がするのは、自分だけだろうか。
「それは違うぞ、カガリ」
 少なくとも、オーブの国民達は《カガリ》が代表だからこそこの国に留まっているのではないか。何よりも、自分やラクスは、カガリがここにいるからこそプラントを捨ててこの地にいることを選択したのだ。
「……キラがいるから、ではないのか?」
 こう言うときにこの質問をするのは卑怯かもしれない。
 それでも、いまなら聞いてもアスランは答えをくれるのではないか。そう思ってしまったのだ。
「……それも理由の一つかもしれないが……でも、キラだけであれば、あいつをプラントに連れて行けばよかっただけだしな。でも、お前はそういうわけにはいかない」
 だから、この地に移住することも、名前を変えることも構わないと思ったのだ。アスランはそう口にする。
 それは自分が求めた答えではない。
 これで我慢すべきなのだとはわかっていても、やはり割り切れないと感じてしまう。
 ラクスが言ったセリフなら気にならないのに。
 アスランにはせめて……と考えてしまうのだ。
 それとも、まだまだアスランの中で自分よりもキラの方が比重が大きいのか。それを逆転させるにはどうしたらいいのだろう。
 その答えを見つけるまでは、やはり帰ってこないでくれ。
 心の中のキラに向かってカガリはそう呟いていた。