手足を投げ出すようにして、キラが眠っている。その目尻が赤くなっているのは、間違いなく自分のせいだろう。
「まぁ……諦めてもらうしかないな」
 こうなった以上、自分は引き下がるつもりはない。後は完全に受け入れさせるだけだ。そう考えながら、カナードは口元に笑みを刻む。
「お前は、俺のものだ」
 言葉とともに指先でそうっと首筋に触れる。そこには、カナードの所有の印がはっきりと刻まれていた。
 いや、首筋だけではなく全身にそれは散っている。
 それに気付けば、きっとキラはベッドから出てこないだろうな……とそんなことも考えてしまう。
「まぁ、それはそれで好都合だが」
 その時はベッドに連れ込む手間が省ける……ととんでもないセリフをカナードは口にする。今回だけですますつもりは全くないのだ。
「まぁ、今日の所はこのまま寝かしておいてやるが」
 流石に、初心者相手にやりすぎたという自覚はある。それでも、ようやく手に入れられたのだから当然のことと言えば当然のことなのかもしれない。
 それに、とカナードはこっそりと付け加える。
 キラも恥ずかしがってはいたが行為自体は受け入れてくれていたように思う。
 だから、後は行為になれさせればいいのではないだろうか。
 そんなことも考えてしまう。
 もっとも、キラがいやがったとしてももう放してやれるはずもない。いずれまた、離れ離れになるとわかっているからこそ、一緒にいる間は……と思ってしまうのだ。
「まぁ、それも後で考えればいいか」
 今は、取りあえずこの幸せをかみしめていたい。でなければ、また依頼が舞い込んできてそれだけを考えていることができなくなるだろう。
 そんなことを考えながら、カナードはキラの隣に体を滑り混ませた。
 そのままそっと彼の体を抱き寄せる。
「……ん……」
 カナードの温もりを求めているかのように、キラが体をすり寄せてきた。
「いいこだ」
 そんな彼の仕草にカナードはふわりと優しい笑みを漏らす。そして、その表情のまま目を閉じた。

 カガリがシャワーを使う音が耳に届いている。
「……疲れた、な」
 それを耳にしながら、アスランは小さなため息を漏らした。
 もちろん、それはカガリとのことが原因ではない。
 それでも、とアスランはまたため息をつく。今日はこんなことをするために来たわけではなかったのに、とは思う。それなのにどうしてこういうことになったのか。
 もちろん、いやだというわけではない。
 自分に責任をもてる者同士が付き合っていれば、自然なことだろう。
 それでも引っかかりを覚えてしまうのは、話し合いの途中で何故かこういうことになってしまった、と言うことかもしれない。
「カガリの部屋、と言うことがまずかったのかもしれないな」
 これが他の場所であれば、もう少し違った方向に行ったのではないか。
 少なくとも、報告が終わるまではこんな状況にならなかったかもしれない。
 もちろん、流されたのは自分が悪い、と言うことはわかっていたが。
「キラにはあきれられるかもしれないな」
 自分たちが仕事を放り出してこんなことをしているなんて……とアスランは呟く。しかし、次の瞬間、その事実に驚いてしまう。
「……何で、キラのことを……」
 ここで思い出してしまったのか。その理由がわからない。
 確かに、キラの行方は気にかかっている。
 しかし……と思うのだ。
「……アスラン……シャワーを使うなら使ってくれ」
 髪をタオルで拭きながら、バスローブ姿のカガリが姿を現した。その仕草がキラのものとどこか似ているような気がする。
 何気なくそう考えた瞬間、体の奥で何かがざわめいたような気がした。
 しかし、それは何に反応をしたものなのか。
「すまない」
 それを確かめるのが恐い。何よりも、今の状態をカガリに悟られるのもまずいだろう。そう思ってアスランはさっさとシャワーブースへ逃げ込むことにした。
「何か食べるだろう?」
 まったく疑う様子もなく、カガリがアスランの背中に問いかけの言葉を投げつけてくる。
「……そうだな……」
 妙に機嫌が良さそうな彼女の声に、アスランは同意の言葉を返した。ここで彼女の機嫌を損ねては後のことが厄介だと思ったのだ。
 それに、とアスランは心の中で呟く。
 これから話し合いたいこともあるのだ。だから、と自分に言い聞かせるように心の中で付け加える。
「なら、用意をさせておく」
 そう告げる彼女に頷くと、アスランはシャワーブースに足を踏み入れた。
 手早く服を脱ぎ捨てると、汗を流すためにからんをひねる。
「……キラ……」
 頭から適温のお湯をかぶりながら、アスランは小さな声で《親友》の名前を呼ぶ。
 きっと、変なことを考えてしまうのは、彼が側にいないからだ。そんなことも考えてしまう。
「どこにいるんだ、お前は」
 この呟きは水とともに排水溝に流れていった。