「軍事用衛星が故障?」
 その報告に、デュランダルは聞き返す。
「はい。先の大戦のおりに開発され、そのまま運用されておりましたが、先日、不意に信号が途絶えたと」
 どうするべきか、とザフト内でも判断が分かれているのだ、と彼は続けた。
「……今はそれが必要なのかな?」
 取りあえず確認の言葉を口にする。
「いえ。現状では必要がありません」
 戦争中であればあの周囲にあった秘密基地を隠さなければならなかったが、今はそうではない。何よりも守るべき基地は既に廃棄されている、と彼は続けた。
「なら、放っておきたまえ。あそこには何もなかったのだ」
 そちらに人員を振り分けてザフトの所行を知られるよりも、気付かなかったことにすればいい。
「議長……」
「ザラ議長が亡くなられたときに、多くの資料が失われた。そういうことだよ」
 それよりも優先しなければいけないことがあるだろう、とそうも彼は告げた。
「オーブの方からまた何か言ってきたそうだね」
 この言葉に、彼も即座に意識を切り替えたようだ。また新たな報告を口にし始める。
 その言葉を聞きながらも、デュランダルは別のことを考えていた。
 オーブにいたはずの《彼》の姿が今は確認できない。それはどうしてなのか。
 もし、彼がオーブで排斥されようとしているのであればプラントに連れてくればいい。そうすれば自分の願いのために有利になるだろう。
 しかし、そうなればあの子が辛い思いをするかもしれないが。
 それに関しても、後で調べなければいけないだろう。そんなことも考える。
「取りあえず、そちらの新しい機体の開発を進めさせてくれた前。それであれば、条約には引っかからないだろうからね」
 何にせよ、今は自分の足場を固めることが優先だが。
 いずれ、自分の言葉に矛盾を感じるものが出てくるかもしれない。しかし、そのような者達でも手出しをできないように、しっかりとした実績を積み重ね手しまえばいいだけだ。そうすれば、民衆の方が自分を守ってくれるだろう。
「オーブからの難民に関しては、今まで通りに。あの国は、これから同胞が暮らしにくくなりそうだ」
 コーディネイターは同胞意識が強い。だから、彼等はこの国を頼ってくるのだろう。その人々もまた、自分の目的のためには必要なのだ。
「わかっております」
 返された言葉に、満足げに頷く。
「後、懸案は残っているのかな?」
 そして、次の言葉を促した。

 二人だけになれば、キラはほっとしたような表情を作る。
 しかし、相変わらず微妙な距離を保とうとしていた。
「キラ」
 このままでは、また逃げられるかもしれない。その前にさっさとキラに自分自身の気持ちを気付かせるしかないだろう。
「……何?」
 だが、キラの方は違う考えを持っているらしい。それが間違いなのだとわからせる方が先だろうか。
 どちらにしても、この距離は気に入らない。
「あのプログラムに関して、二つ三つ聞きたいことがある」
 だから、もう少し近づけ……とそう付け加える。
「……何か、不都合でもあった?」
 キラはそれをプログラムの内容についてのことだと判断したようだ。おそるおそると言った様子で近づいてくる。そんな彼の腕を、カナードは手を伸ばして捕まえた。
「カナード!」
「こうしないと、お前が逃げるからな」
 話をする前に……とカナードは言い切る。そのまま、しっかりと彼の体を自分の腕の中に閉じ込める。
「逃げるって……」
 別に、とキラは口にした。しかし、彼は視線を彷徨わせている。その態度が自分の言葉を裏切っていると気が付いているのだろうか。
「逃げるだろう? 間違いなく」
 自分の気持ちに蓋をして……とカナードはキラの顔をのぞき込む。その視線から逃れようとするかのように彼は顔を背けた。しかし、それを許さないとカナードは彼のあごを掴んで自分の方へと視線を向けさせる。
「ほら。今だってそうだろうが」
 違うのか、と付け加えればキラは困ったように視線を床に落とした。
「だからといって、困らせるつもりはないんだが……」
 当面の目的は、取りあえずキラに自分自身の気持ちを自覚して貰うこと。そして、笑顔を作れるようになって貰うことだからな、と心の中で呟く。
 まぁ、健全な肉体を持った年頃の男としてはそれなりにしたいこともある。しかし、それを今のキラに押しつけるのはまだまだ早いのではないか。もっとも、キラが受け入れてくれるようならば話は別だが、それこそまだ無理だろう。
「……そんなこと言ったって……」
 今だって、とキラは泣きそうだ。
 そんな彼の目元にキスを落としてしまったのは、間違いなく無意識の仕草だろう。
「……カナード……」
 キラも驚いているが、自分だって驚いている。だからといって、それをキラに告げるわけにはいかない。
「なく子にはこれが一番だろう?」
 代わりにこんなセリフを口にした。
「別に、泣いてなんか……」
「泣いてるだろうが。ずっと」
 目には見えなくても、心の中で……とキラの耳元でそうっと囁いてやる。その瞬間、彼は驚いたように目を丸くした。
「どうして……」
「わかったのか、か? 好きな相手を見ているのは当然のことだろう?」
 だからだよ……とカナードは笑ってみせる。
 それに、キラはどうすればいいのかわからないという表情を作った。