「いや、まじで助かったぜ」
 サーベントテールの母艦へと移動すればリードが苦笑とともにこう言ってきた。その手はいつものように酒瓶が握られている。
「そっちの坊主が風花と一緒に来たかと思ったら、あっという間にシステムを回復させてくれてな」
 それだけではなく劾達も救助してくれて、と彼は本気で感心しているという視線をキラに向けていた。しかし、それから逃れようとするかのように、キラはカナードの背後に隠れてしまう。
「リード。エロオヤジの視線に見えるわよ」
 さりげなくロレッタがそんなキラをフォローするかのようなセリフを口にしてくれた。きっと、風花からキラのことを聞いていたのだろう、とカナードはそう判断をする。あるいは劾からかもしれない。
「エロオヤジってだな……俺は普通に女の方が好きだぞ」
 まぁ、そっちの坊主は女の子に負けないくらい可愛い顔をしているが……と彼は真顔で付け加える。
「パーツパーツはカナードとよく似ているんだがなぁ」
 しかし、カナードにはそんな表現は使えない……と彼ははき出す。
「……そこまでにしておけ」
 いい加減にさせないと、せっかく開きかけたキラの心が閉じてしまう。それではダメなのだ。そう思ってカナードは口を開く。
「そうだよ。まったく……そういうところがエロオヤジだって言っているのよ」
 見た目だけしか判断材料にしないんだから、とロレッタも彼を非難する。
「少なくとも、恩人に対する態度ではないな」
 さらに劾がこう締めくくった。
「ともかく、今回は助かった。本気でどうするべきか悩んでいた所だったからな」
 そのまま視線をキラへと向けると劾はこう口にする。
「……自分が、できることをしただけです……」
 キラが小さな声で言葉を返していた。
 しかし、そうすることが彼にとってどれだけ大変だったことなのか、カナードには想像ができる。それでも、彼が自分で判断をして行動をしてくれたことには本当に感謝するしかない。
「それだけでも十分だ。我々にはむずかしいことだったからね」
 これで十分、対処ができる……と劾は笑う。
「確かに。こんなものを放置しておいたら厄介などと言うものではないからな」
 ジャンク屋でも対処がむずかしいだろう。だから、さっさと片づけてしまった方がいい。カナードもそういって頷く。
「爆破、でいいの?」
 それとも、憂さ晴らしにMSで破壊するか……と風花が口を挟んでくる。
「風花……あのなぁ」
 イライジャがあきれたように言い返す。しかし、風花は気にしている様子はない。
「何、ごまかしているの? イライジャだってそういっていたじゃない」  それどころか、逆襲を始めている。そういうところが強いよな、と心の中で呟いた。もっとも、彼女にしてみれば当然のことなのだろうが。
「下手に破壊をすると、ザフトから何かを言われるかもしれないからな。取りあえず、故障して貰おう」
 それであれば、ザフトとしても何も言えないはずだ。
 そこまで考えられるからこそ、劾は一流なのだろう。自分も見習わなければな、と心の中で呟く。
「そういうことなら、一部だけレーザーで撃つか……それとも、爆破するか、だな」
 そのくらいであれば、現状でも十分にあり得ることではないか……とカナードは口にする。
「確かに。どちらが楽だろうな」
 一番楽なのは全部破壊することだが、と付け加える劾に、誰もが苦笑を漏らした。

 対策が決まったので、取りあえず準備のために自分たちの艦に戻ることにする。ついでに、キラを少しやすませた方がいいだろう。カナードはそう思っていた。
「おい」
 キラとともに取りあえずドレットノートイータに向かっていた彼を、リードが呼び止める。
「……何か?」
 キラに視線だけ出先に行くように伝えてから、カナードは彼を振り向いた。
「……あの坊主が、ストライクのパイロット……でいいのか?」
 リードにしてもキラに聞かせるつもりはないのだろう。声を潜めながらこう口にする。
「それを知ってどうする?」
 返答次第ではただではすまさない。言外にそう付け加えながらカナードは相手をにらみつけた。
「きな臭い噂があるからな。そうだとしたら、警戒を強めた方がいいか、と思っただけだよ」
 必要があれば、知り合いに根回しをした方がいいかもしれない。リードはそうも付け加える。
「お前が一緒なら、そう簡単に手出しはできないとは思うが……完璧ではないからな」
 さらに彼は言葉を重ねた。
「……何が言いたい……」
「いくらお前でも、補給なしで活動をするのは不可能だ、と言うことだ」
 ジャンク屋ギルドはマルキオの影響下にある。だから、大多数のものは信用してもいいだろう。しかし、一部のものはそうではないのだ。
 それ以上に、ギルドに属していない者達が問題だろう。彼はそう付け加える。
「地球軍の連中が、彼の存在を探しているらしいしな」
 他にも様々な非合法組織がキラの身柄を確保しようとしているらしい。
「それと……オーブでもそのような動きがある」
 もっとも、あちらは事情が違うようだが……と彼は続けた。
「……オーブ? アスハではなく、か?」
「あぁ。他の首長家らしい」
 調べるか? という彼にカナードは即座に頷いてみせる。
「相手がわからなければ対処の取りようがないからな」
「確かに。そういうことなら調べておくか」
 今回のことで本当に世話になったからな。そういいながら彼は笑う。
「さっきのことも、これで勘弁してくれ」
 それが一番いいたいことではないのか。ふっとそんなことを考えてしまう。
「本人次第だな」
 取りあえず、これだけを言い返した。
「……普段かわいげのない連中の相手をしていたからなぁ」
 まぁ、汚名返上のために頑張るか。そう言っている彼を後に残して、カナードはキラの元へと向かって移動を始めた。