そんなことを繰り返しているうちに目的の場所に近づいていた。
「……そろそろ何かが起きるかもしれないぞ……」
 注意をしろとカナードがメリオル達に注意をしている。それを耳にしながら、キラは端末を操作していた。
 自分が見つけたデーターが正しいのであれば、あちらから何かアクセスがあるはずなのだ。それを確認できないかと思っていた。
「……予想外にこのあたりには生きている軍事衛星が多いのかもね」
 こちらをサーチしてこようと言う電波の多さに、キラはそう判断をする。
 それとも、これらも目的のそれの端末なのだろうか。
「取りあえず、今のところは悪さをしてくるようなものはいないかな?」
 あるいは、これらが同時にアクセスをしてくることで船のシステムの方がバグを起こしてしまうのか。
 どちらにしても、この宇宙空間では迷惑な話だ、とキラでも思う。そのような状況であれば、救援に来た船も巻き込まれるだろう。そう考えられるからだ。
「……そういえば、MSのシステムは大丈夫なのかな……」
 今まで聞いた話は、全て宇宙船のことだけだった。MSに関して言えば、確かにいまではナチュラルも操縦できる。しかし、コーディネイターにしてもナチュラルにしても、操縦できる人間は圧倒的に軍人が多いのだ。
 数少ない例外であるジャンク屋や傭兵は、依頼がなければ危険には手を出さない。そのことは、カナード達と一緒に行動してみてよくわかった。だから、それに関して確認したものはいないだろう。
「カナードに一応、言っておいた方がいいのかな?」
 余計なお世話かもしれないけれど……とキラは呟く。でも、それで彼らに何かあったらと思えば、対策を考えておいた方がいいのではないかとも思うのだ。
 しかし、とキラはカナード達に視線を向ける。
 問題は、どのタイミングで声をかけるかかもしれない。下手なときに声をかけて彼等の話を邪魔してはいけないし、とも心の中で呟く。
 もっとも、そんなことで悩まなくてもすんだ。
「どうかしたのか、キラ」
 キラの視線に気付いたのだろう。カナードが声をかけてくる。
「……ちょっと気になることがあったから……」
 確認しておいた方がいいかな、と思っただけ……とキラは言葉を返す。
「何だ?」
 構わないから言って見ろ、と彼は視線で続ける。
「……今回のこと、MSには影響が出ないのかなって、そう思っただけ。僕が見た資料には載っていなかったから」
 影響が出ないとは言い切れないだろうし……とキラは付け加えた。
「……確かに、その可能性に関しては考えていなかったな」
 大西洋連合やオーブの船だけではなく、プラントのそれにも被害が出ている以上、識別信号で区別をしているとは思えない。何が原因であるのかわからない以上、対策を取っておくべきなのかもしれないな、とカナードも頷く。
「先に行ったサーベントテールからの連絡は?」
 取りあえず、連絡を取った方がいいだろう。カナードはそう付け加えながら振り向く。
「今のところはありません。回線を開きますか?」
 メリオルが問いかけてくる。
「そうしてくれ」
 カナードの言葉に彼女が頷いた。そして、そのまま指示を出す。
「……みんな、大丈夫だよね?」
 何か不安を感じているのだろうか。風花がこう呟く。
「皆さん、一流と呼ばれる人だから、大丈夫だよ」
 自分の言葉が彼女に不安を与えてしまったというのならば、申し訳ない。そんな気持ちでキラは彼女に声をかけた。
「そうだな。どのような状況でも的確な対処が取れるから、一流なんだろう」
 だから、何かあったとしても大丈夫だ……とカナードは口にする。
「こちらから連絡を入れるのは、情報が多い方がいいだろう、と思ってのことだしな」
 しかし、キラに指摘されるまでその事実に気が付かなかったとは……とカナードは思いきり顔をしかめる。
「無意識のうちに、MSと船を別物と考えていたのか」
 どちらもプログラムで制御されているというのに、と言う彼に風花もようやく事情を飲み込んだようだ。
「言われてみればそうですよね。私も考えてなかった……」
 どうしてだろう、と風花は呟く。
「元々あるOSをカスタマイズして使っているから、だろうな。それと宇宙船のシステムが同じものだというのは……自分でシステムを構築している人間でなければ気にもしないのかもな」
 だが、実際にことが起きる前に気付いてくれてよかった……とカナードはキラへとまた視線を向けてきた。
「礼を言うぞ、キラ」
 柔らかな微笑みとともにこんなセリフを言われて、キラの方が驚いてしまう。
「だって……このくらいは、普通のことだと……」
 礼を言われるほどのことではないだろう、と慌てて言い返す。それに、自分にはこのくらいしかできないのだし、とも。
「そのくらいというのが重要なんだぞ」
 自分たちにできることをきちんとする。だが、それ以上のことに手を出して失敗してはいけない。それが傭兵としての鉄則だからな、とカナードは逆に言い返してくる。
「ここにいるのはお前一人ではない。だから、できることを分担すればいいだけだ」
 彼がそういうのであれば、それは正しいのかもしれない。
 同時に、自分の存在はやっぱりどこかおかしいのかもしれない、とキラは心の中で呟く。
 それとも、今まで自分を取り巻いていた環境が、だろうか。
 確認したくても、誰も答えをくれないだろう。だから、自分で答えを見つけ出さなければいけないことはわかっている。
 それでも、とキラは思う。
 誰かに教えて欲しいと考えてしまうのは甘えなのだろうか。それとも……と心の中で呟いた時だ。
「カナード!」
 メリオルの緊迫した声が周囲に響く。
「あちらと連絡が取れません!」
 この言葉に、誰もが息をのんだ。